本『金色昔日』ケン・リュウ編 

 

残り7人の作品を読んだ順に

「ほら吹きロボット」 飛(フェイ)ダオ(ダオ変換できず) 中原尚哉訳

  繊細で美しいといわれるフェイダオの作品、解説にはカルヴィーノ風のSF

  ファンタジーとありました。民話的・寓話的なところは確かにカルヴィーノ

  の雰囲気があります。

 

「晋陽の雪」 張(ジャン)・ラン(ラン変換できず) 中原尚哉訳

  五代十国時代(10世紀)を舞台にした穿越(チュワンユエ:タイムトラベル)

  小説です。史実の晋陽は宋の太宗による包囲のすえ陥落しました。

  網絡(ネットワーク)・猛火油(ガソリン?)で動く蒸気機関をそなえた自

  動車・光剣(ライトセーバー=懐中電灯)・雷朋(レイバン=黒メガネ爆  笑

  などなど現代の技術を駆使する謎の人物魯王爺のお陰で、宋に攻撃されても

  晋陽はもちこたえているのですが・・・さて、夏の晋陽に雪は降ったのか?

  最も近い地球外生物の可能性で話題になったアルファケンタウリだの、並行

  宇宙だの、ポテンシャルエネルギーだのが語られるかと思うと、『千字文』

  や『続資治通鑑長編』、実在の畢昇(ひっしょう:11世紀の発明家、焼き固

  めた膠泥製の活字で世界初の活版印刷をした)や黄巣(こうそう:9世紀の農

  民反乱指導者)まで登場して、ある程度史実を知っていると、あちこちに仕

  掛けられた笑いのツボに嵌ります。

  ☆「始皇帝の休日」と並ぶ私の一押し。いやぁ、たまりませんラブ

 

「壊れた星」 糖匪(タンフェイ) 大谷真弓訳

  嘉茗(ジアミン)が夢うつつの中で出会う星占いの女は誰?

 

「金色昔日」 宝樹(バオシュー) 中原尚哉訳

  宝生(バオション)のたどった生涯は、現代から民国時代へと遡るもの。

  社会が歴史をさかのぼりはじめたら、どんな人生を送ることになるだろうか

  というアイディアから生まれた作品。読み終わって、作者がタイトルにこめ

  た意味が余韻となって、心に残ります。

 

「鏡」 顧適(グー・シー) 大谷真弓訳

  1透視能力者 2インタヴュー 3初めての出会い 4全知の存在 5鏡に

  映った自分   

  過去の記憶が無い彼女(透視能力者)と未来を見通す能力の無い“ぼく”、指

  導者のマーク。叙述(の作為)によって成り立っている物語です。

 

「ブレインボックス」王侃瑜(レジーナ・カンユー・ワン) 大谷真弓訳

  故人の最後の5分間の記憶を移植する実験に参加した方鋭(ファン・ルイ)は

  最愛の人の記憶を知ることになるのですが・・・。

 

「開光」「未来病史」 陳楸帆(チェン・チウファン) 中原尚哉訳

  ①ビジネスで成功したものの、ネットユーザーによって暴かれる私生活、寺

  に引っ込まざるを得ない状況に陥った“俺”の悟りやいかに。

  ②iPad症候群 擬病の美学 制御された多重人格 双子の挽歌 新月 幼態 

  儀式依存と脱却 時感の乱れ 終章:異言症

  未来から来て、明日の人類をむしばむ病症を語るスタンリーが見た歴史の終

  点に至る人類の物語。

 

エッセイ

 中国SFとファンダムへのささやかな手引き―王侃瑜

 中国研究者にとっての新大陸:中国SF研究―宋明煒(ソン・ミンウェイ)

 サイエンス・フィクション:もう恥じることはない―フェイダオ

 解説 立原透耶

*なお、作家の名前(カタカナ)は「・」で分けられていない場合は、苗字・名の別が無いひとまとまりのペンネームです。

 

このアンソロジーの良いところは、それぞれの作家についての紹介が作品の前に配されていて、作品理解の助けになっていることです。よほど詳しくない限り、まだまだ知られていない現代中国のSF、しかも、私のようにSF自体にあまり親しんでいない身には、この作者紹介と3編のエッセイがたいへん役立ちました。ケン・リュウというフィルターを通したものだとしても、信頼できるラインアップだと思います。

やっぱりもう1冊のアンソロジー本『折りたたみ北京』も(郝景芳はダブるけど)読もうっと!