『郝景芳(ハオ・ジンファン)短編集』 及川茜訳 白水社エクスリブリス
2019年 第2刷
第1刷が刊行された3か月後に早くも2刷が出されました。
郝景芳は1984年生まれの中国のSF作家です。
この短編集の最初に挙げられている「北京 折りたたみの都市」は、優れたSF・ファンタジーに与えられるヒューゴー賞(中編小説部門)を2016年に受賞しました。
郝景芳は小学生のころから科学、とりわけ天体に興味を持っていて大学~大学院では初め天体物理学を専攻し、後に博士課程で経済学の博士号を取得しています。
作家以外の活動として、教育機会に恵まれない子どもたちを対象とした教育プログラムを立ち上げています。
◎この短編集は『孤独深処』の中の7編を訳出したものです
目次(タイトルは日本語:原題)
北京 折りたたみの都市:北京折畳
都市の高層ビルが、折れ曲がって組み合わされ眠りについた後、切り分けら
れた地面が回転して折りたたまれていた反対側の建築物が姿を現わします。
ルービックキューブというたとえから、カタカタと回転して別の面が表れる
折りたたみ式都市のイメージが湧いてきます。富裕層、第2の層、第3の層と
住んでいる人間も階層化され、互いの行き来が禁じられています。
越境を企てる主人公老刀(ラオダオ)は帰ってこられるでしょうか。
弦の調べ:弦歌
突然襲来しては破壊行為を繰り返す鋼鉄人、彼らの攻撃の法則に気付いた地
球人が編み出した作戦は古い町への移住と文化活動です。音楽家林先生と協
力者たちが発見した物理の法則による拠点攻撃。なんでも吸い込むブラック
ホールとヤコブの梯子のように宇宙に伸びるエレベーター、ストーリイより
イメージを重視するという著者の発想を楽しめます。
繁華を慕って:繁華中央
「弦の調べ」は夫の陳君(チェン・ジュン)の視点から描かれ、本作は妻で
ある阿玖(アジウ)の視点で綴られています。
生死のはざま:生死域
読んでいてしきりに思い出されたのは、(笑える話ではないのに)古典落語
の「らくだ」と「粗忽長屋」でした。ここで引用される崑劇の名作「牡丹亭」
が印象的でした。(明・清時代を舞台にしたドラマを見ると、よく出てくる
のが崑劇。「牡丹亭」はその代表作)
山奥の療養院:深山療養院
理数系スーパーエリートの煩悶、と云ってしまっては身も蓋もないのですが。
孤独な病室:孤単病房
看護師の斉娜(チー・ナー)、どっぷり浸かったネット社会での彼女の居場
所はどこに?
先延ばし症候群:拖延症患者
課題に取りかかれない研究生、締め切りを目前にした普通の学生のアルアル。