本『景福宮の秘密コード』 イ・ジョンミン 裵淵弘訳 河出書房 2011年初版

 

副題に―ハングルに秘められた世宗大王の誓い―とある推理小説、上・下のうち上巻を読んだところです。

ハングルを生み出したとされる、李朝第4代国王世宗(在位1418~1450)の事績と王の改革に反対する勢力の抗争が主題です。

世宗は身分を問わず広く人材を集め、様々な分野の文献を収集・編纂し、儒教以外の学問を認めない旧弊な伝統の改革に努めました。また、貨幣経済をすすめようと独自の通貨を鋳造しますが、浸透しませんでした。このように文化の面では英明で進歩的な君主ですが、一方で身分制では後退ともとれる制度改革を断行しています。

また、朝鮮はあくまでも中国(明)に朝貢しなければならない属国扱いで、機嫌を損ねたら国の存亡に関わります。

上巻で国王は40歳になったと云っているので、殺人事件が起きたのは1437年頃と推定されます。

事件は王宮である景福宮内部で起こり、被害者は全員人材登用で集められ集賢殿で研究に従事する知的エリート学士です。彼らは、学問の主流から外れる数学や天文学、民謡収集などを対象にしていました。捜査を担当するのは、あまり学問に縁のない若い兼司僕(王室の護衛官)カン・チェユン。身分が低いため捜査に支障をきたしますが、粘りと機転、集中力で次第に核心に迫っていきます。

事件に絡めながら、世宗の改革と高官の抵抗、志ある学士たちの苦悩などが語られ、読むに従って15世紀の李氏朝鮮が抱えていた問題が浮かび上がるようになっています。スリリングかつスピーディに展開する物語はとても面白く、朝鮮史を知らなくても十分に堪能できます。

初め、名前や役所名など馴染みが無かったので時間がかかりましたが、だんだん調子が出てきました。

下巻ではさらに殺人事件が起きて、最終章でいよいよ犯人を追いつめるチェユンが描かれます。ワクワクします。