本『道長ものがたり』 山本淳子 朝日新聞出版 2023年 初版

 

『源氏物語の時代』『私が源氏物語を書いたわけ』『平安人の心で「源氏物語」を読む』『枕草子のたくらみ』に続いて、源氏物語の背景を語るのに欠かせない道長を中心に据えたのが本書です。

『紫式部日記』寛弘5年(1008年)11月の条に、式部は夫を喪った(1001年)あとの心細い日々の慰めとなったのは、親しい人々仲間と文を通じて物語について語り合うことだと書いています。

式部が請われて彰子サロンに出仕したのは、1005年か1006年の年末と推定されています。『源氏物語』は出仕までの間に書き始められたらしく、友人・知人に愛読され、書写されて広まっていき、式部は物語作者として知られるようになります。

一方落魄の定子を慰めるために書き始められた『枕草子』は、定子の死後も書き継がれて流布し、定子人気のもとになりました。

 

道長がどのように出世の階梯を登って行ったか、目次にしたがって見ていきましょう

 はじめに

第一章 超常的「幸い」の人・道長

   富・権力・結婚・家族・長寿に恵まれた強運(幸い)の人。

第二章 道長は「棚から牡丹餅」か?

   左大臣源雅信の娘倫子との結婚で飛び級出世。婿入りで一気に上がる評価。

   父兼家の死で氏の長者は長兄道隆に。一条天皇の元服。定子の入内。

   道隆の正室貴子は女官№3のキャリアウーマン、漢詩人としても名高く

   並みの男より有能とされた。定子もまた、ありきたりの貴族の娘ではなく

   知的でウィットに富んでおり、一条天皇の寵愛を一身に受ける。

   中宮大夫の道長は中関白家へのあからさまな不服従を示す。

第三章 〈疫〉という僥倖

   娘彰子の入内を見据えた布石。中宮職の不手際に見る道長の意図的懈怠。

   見せ場では自分の存在をことさらにアピール。

   正暦5年(994)九州から始まった天然痘の大流行は都へも。貴族たちも罹患。

   道隆、道兼相次いで亡くなる。道長の政敵一掃の機会となる。

第四章 中関白家の自滅

   道隆の後ろ盾を失い没落する定子一族。定子は出家する。

第五章 栄華と恐怖

   栄華をきわめるも、たびたび病にみまわれる道長は怨霊のせいと恐れる。

   中宮の空席を狙って娘を入内させる貴族たち。

   定子に執着し、還俗させて呼び戻す天皇。

   999年入内を見据えた彰子の裳着の儀、彰子数え年12歳。

   この年内裏から出火、定子のせいだとして定子いじめが大っぴらに。

第六章 怨霊あらわる

   11月彰子入内。道長へ追従して要請されるまま祝いの屏風に歌をよせる貴族。

   定子、敦康親王を産む。二后冊立。定子、内親王の出産で崩御(24歳)。

   怨霊の襲撃におびえる道長。

第七章 『源氏物語』登場

   「・・・すぐれて時めきたまふ・・・」と桐壺更衣を描いた式部、彰子

   サロンに出仕。二后冊立に貢献した行成は怨霊の出現に動揺し、道長べった

   りから定子同情派に傾く。天皇の定子思慕は止まず、妹の御櫛笥殿を寵愛。

   定子美化の風潮を批判的にとらえる式部。入内後8年で彰子懐妊。

第八章 産声

   彰子里帰りして敦成(あつひら)親王を産む(1008年)。

   出産時の怨霊の怨嗟。

第九章 紫式部「御堂関白道長の妾?」

   『尊卑分脈』に道長の妾*とされた式部。

   『紫式部日記』や『紫式部集』の贈答歌から生まれた説。

   式部は道長の召人**になれたのか?

   *妾は正室以外の妻、側室のこと

   **召人は継続的に関係を持った女房。道長は召人の存在を隠さなかった。

   女房仲間で話題にならなかった式部は継続した関係はなかったと推測される。

第十章 主張する女たち

   倫子に頭のあがらない道長。

   敦成親王を天皇にするための布石。一条天皇譲位ののち崩御。

   天皇の遺言に背いた道長。父を恨む彰子。

第十一章 最後の闘い

   三条天皇即位。4人の妃がいるが、道長の妹で親王時代の妃、綏子の密通発覚。

   綏子と原子の崩御。娍子を寵愛し敦明親王をもうける。道長の娘姸子入内。

   三条天皇と娍子の関係は、一条天皇と定子を思わせるものだった。

   二后冊立。1014年内裏から出火。三条天皇の譲位を迫る道長。

   ☆綏子の密通などを題材にしたのが『月ぞ流るる』(澤田瞳子)1/29拙ブログ

第十二章 「我が世の望月」

   1016年三条天皇譲位、道長の9歳の孫敦成親王後一条天皇として即位。

   上流貴族の娘たちを次々に出仕させることで入内を阻み、道長一族以外の

   貴族が、婚姻によってのし上がる機会を奪う。

第十三章 雲隠れ

   光源氏をなぞったかのような道長の最期。

 あとがき

 主要参考文献

 『道長ものがたり』関係年表