映画「国際市場で逢いましょう」 2014年 韓国

 

監督:ユン・ジェギュン

ドクス:ファン・ジョンミン

ドクスの妻:キム・ユンジェ

ドクスの親友:オ・ダルス

叔母:ラ・ミラン

人気歌手ナム・ジン:ユンホ(東方神起)

 

ゆうべCSで放映された韓国映画です。

タイトルから感じられるようなほのぼのした物語ではありません。

国際市場(こくさいいちば)は、韓国・釜山にある、主に北からの人々が中心になって開かれた闇市が始まりと云われています。

 

市場の中をひらひらと蝶が舞っています。孫娘と散歩しているドクス。

ちょっと気に入らないことがあるとすぐ怒るおじいさんを質問攻めにする孫。

街の雑踏の中で孫娘の手を離したことから、突然思い出したのは、朝鮮動乱の時に分かれたままになっている妹のことです。

せっかく独立を果たしたのに、ほどなく中国・ソ連・アメリカを背景に南北対立が激化し、港のある興南(現朝鮮民主主義人民共和国・咸興市)には、戦乱を逃れて難民が押し寄せていました。大混乱の中、駐留米軍は戦車揚陸艦(LST)に搭載された武器をおろし、難民を乗せて南へ向かいます。

ドクスが妹と離れ離れになったのはこの時でした。父は妹を探すために乗っていたLSTを降り、家族を少年ドクスに託して興南へと戻っていきます。

映画のタイトルは、父と約束の言葉にちなんでいます。

父は、釜山の国際市場で店を開いている叔母さんのところへ行くように、自分も後から必ず行く、と約束しました。この時から家族の生活は、家長としての少年に委ねられます。叔母の家に居候しながら青年になったドクスは、家族を養うために少しでも条件の良い(お金になる)仕事を求めて、ドイツへ、ヴェトナムへと“出稼ぎ”に行きます。

焼け跡・闇市・浮浪児・浮浪者・かっぱらい・米軍に群がるこどもたち・・・・前半の描写は、戦後間もない日本でも見られたことです。

1983年、ソウルで大々的に開かれた行方不明者を探す運動を見て、ドクスも参加します。父は見つからなかったものの、アメリカに渡っていた妹と再会できました。

家族からどんなに言われようと、店の看板を変えようとしなかったドクス。

それは、自分を探してくるに違いない父と妹の為でした。

・・・・妹とは再会を果たし、きっと父親も年を取り過ぎて来られないだろうから、もう店を畳むことにしよう、と決めるドクスの周りをまた蝶が舞い、どこかへと去っていきました。西欧では蝶は死者の魂と云われていますが、朝鮮半島の人々もそのような感覚を持っているのでしょうか。「そうだよ、お前はもう十分に約束を果たしたよ」というように舞う蝶が象徴的です。

また、妹を特定する決め手にもなった、母親が袖口にほどこした花と蝶の刺繍もまた、市場を舞う蝶とのつながりを印象付けました。

監督が、自分の親世代の経験をできるだけ過不足なく描こうとして出来上がったと聞いています。現代の若者とのずれなどもさりげなく描かれ、一介の市民の歴史として、とても良くできた映画でした。