3月6日の続きです。前回は書名と作者の紹介に終わりました。前回と違ってすこし煩雑になりますが・・・・(どうぞスルーなさってください)

064 『西欧の東』ミロスラフ・ペンコフ

  作者はブルガリア生まれで19歳のときアメリカへ留学、そのままとどまり

  英語で小説を発表している。母語ではない言語で書く文章はシンプルで詩的。

  本作は8編の短編からなる。バルカン諸国、なかんずくブルガリアの特殊性

  (分断と統合の歴史)を反映した巧みな短編。

065 「狂人なおもて往生をとぐ」清水邦夫

   『万博聖戦』牧野修

  清水作品は1969年に上演された戯曲。’60年代の大学紛争で異常をきたす

  ようになった長男の妄想につきあって役割を変えながら〈ごっこ〉生活を

  する家族。規制・秩序と個の問題に迫ります。

  牧野作品も社会の規制と個の自由の対立に焦点をあてており、コドモ軍対

  オトナ人間が大阪万博を決戦場として戦う。1970年と2037年の万博をつ

  なげて過去と未来が互いにどのように影響しているかを描く。

066 『洪水』フィリップ・フォレスト

  パンデミックの兆しさえなかった2016年に刊行された作品の冒頭は〈それ

  はまるで伝染病だった〉と始まる。始まりと終わりが定かではない〈秘密の病〉

  を回想する〈わたし〉は水に飲み込まれる街にいる。

067 『まずしい子らのクリスマス』エルンスト・ヴィーヘルト

  常のお伽話とは全く違う様相を呈する童話は、皆川さんがお嬢さんのために

  買ったものだそうです。作者のヴィーヘルトは二つの大戦を生き、彼の40編

  の童話は敗戦間近のドイツで書かれました。

068 『エルサレム』ゴンサロ・M・タヴァレス

  原書は2005年にポルトガルで刊行され、皆川さんがこの項を執筆中の2021年

  に翻訳され海外文学の棚に並んだばかりでした。パンデミックと、それでも

  オリンピックを開こうとする時期にあって、精神病院を舞台にした本書は

  〈不条理〉という切り口で現実とつながっているかのようです。

069 「ある訪問」シャーリイ・ジャクソン

   『気になる部分』岸本佐知子

  ここで触れられている早川の『異色作家短編集』は私も大好きなアンソロジー。

  思わずジャクソンの『くじ』を探しに本棚へ。本書も「くじ」同様、奇妙でぞ

  くぞくするほど怖い。

  そしてUブックスの名作として並んでいた岸本さんのエッセイを手に取った皆川

  さん、お気に入りのようです。

070 『ネガティブ・ケィパビリティ』帚木蓬生

  「不確実さや不思議さ、懐疑の中にいることができる能力」を指すタイトルで

  す。宙ぶらりんの状態を持ちこたえることができる能力、とも言い換えられて

  いますが、私、あんがいこうした能力にたけているのかもしれない。キーツと

  シェイクスピアと紫式部についての魅力的な論説もあるという本書、俄かに読

  みたくなってきました。

071 『だれも死なない日』ジョゼ・サラマーゴ

  人が死ななくなったある国のおはなし。死ななくなったらどういうことが起き

  るか?いびつで皮肉な笑いがふつふつと湧いてきそうです。

072 『孤独』アンソニー・ストー

   「三橋鷹女集」三橋鷹女 『孤独の歴史』ディヴィド・ヴィンセント

  男性であればふつうのことを〈女性がやると「女傑」だの「猛女」だのにな

  る〉、〈女に生まれたのが可哀そうなくらい頭が良い〉などのことばに閉じ込

  められた女性観。強いられた孤独と自ら選んだ孤独・・・、もとよりパンデミ

  ックとはかかわりなく書かれた3冊ですが、ステイ・ホームの環境に置かれて

  いっそう際立って見えてきたものについて語られています。

073 『ボンヌファ詩集』イヴ・ボンヌファ

   『鏡・空間・イマージュ』宮川淳

   『宮川淳とともに』吉田喜重+小林康夫+西澤美恵子

  手放しかねて皆川さんが手元に残した2冊と、呼応するかのように刊行まもな

  い3冊目。自著の『辺境薔薇館』と絡めての紹介です。

074 『名著のツボ』石井千湖

  週刊文春に連載された書評のうち百冊分をまとめたもの。

075 『コンラット・ヴァレンロット』アダム・ミツキェーヴィチ

  著者は19世紀ポーランドの詩人。14世紀のバルト諸国を舞台にした歴史上の

  人物を主人公にした物語。

076 『暴君』スティーブン・グリーンブラット

   『空襲と文学』W・G・ゼーヴァルト

   『優しい語り手』オルガ・トカルチュク

  この項はウクライナ侵攻が始まった2022年2月24日に書き始められました。

  取り上げた対象と現実がまさしく重なりました。

077 『書物の破壊の歴史』フェルナンド・バエス

  暴君がやることといえば焚書です。バエスは、粘土板の時代から現代にいたる

  までの書物破壊の歴史を淡々と語ります。そして、電子書籍の危うさ!たとえ

  ば、データ改竄・(機械の)破壊・ウィルス被害・電源障害・サイバー戦争。

078 『人はなぜ戦争をするのか』A・アインシュタイン、S・フロイト

  この二人が、こんな対談をしていたとは!

079 「鬱夜」ホセ・デ・カダルソ

  ゴヤと同時代を生きたカダルソのセリフだけの小説。

080 『無垢なる花たちのためのユートピア』川野芽生

  東大大学院在学中の若い女性の歌集。女性ゆえの息苦しさを感じる日常がいま

  だにあろうとは!学問の世界の、とりわけ最高学府とされるところの後進性、

  閉鎖性に愕然とします。

081 『人はなぜ騙すのか―狡知の文化史』山本幸司

   『理不尽ゲーム』サーシャ・フィリペンコ

  1冊目は、作者の正しい倫理観を示すために嵌められる枠による、表現の不自

  由さについて考えさせられます。

  フィリペンコはベラルーシ生まれ、ロシアで大学を終え就職。本作は故国ベラ

  ルーシでは禁書扱いだそうです。手練れの書評家豊崎由美さんの熱のこもった

  適切な書評がネットで読めるとか。執筆中の『風配図』にも触れています。

082 『ロシア的人間』井筒俊彦

   『夕暮れに夜明けの歌を 文学を探しにロシアに行く』奈倉有里

   『ぼくはソ連生まれ』ヴァシレ・エルヌ

  ソ連とロシアへのアプローチとなる3冊。

083 『きらめく共和国』アンドレス・バルバ

  知らない言葉を話す、得体のしれない子どもの集団があらわれたサンクリスト

  バル。市民の子どもと先住民の子どものほかに、突然現れて忽然と消えたこの

  未知の子ども集団が町に与えた衝撃を、後に振り返ったかたちで語られます。

  記録として語られる〈未知のことば〉から皆川さんが連想した“のさ言葉”と

  “カ行を足す言葉”は、私が小学生のころも流行りました。カ行ではなく“バ行を

  一文字ごとに入れて”わかりにくさに拍車をかけたものです。

084 『蝶を飼う男 シャルル・バルバラ幻想作品集』シャルル・バルバラ

  社会・慣習・法律から外れた、幻想の世界に生きる人々を主人公とした短編集。

085 『親衛隊士の日』ウラジーミル・ソローキン

  2028年の架空ロシアが舞台。独裁皇帝の支配下にあります。ヨーロッパの侵入

  を防ぐための長城が築かれ、東は中国に開かれている。

086 『ボブロフスキー詩集』ヨハネス・ボブロフスキー

  リトアニアに隣接する東プロイセンで生まれたボブロフスキーは、ヒトラーの

  台頭を目にし、第二次大戦下のソ連での捕虜生活、ドイツの東西分断などを体

  験します。

222 「焚書類聚」皆川博子

333 「針」皆川博子

 

やっと終わった!テキトーに済まそうと思ったのに、そうは問屋が卸さなかったガーン

あくまでも私のための覚書です。長すぎてごめんなさい、ご寛恕ください。