本『ソング&セルフ』 イアン・ボストリッジ 岡本時子訳 

                 アルテスパブリッシング 2024年 初版

シカゴ大学、バーリン・ファミリー・レクチャーの講演を基にした評論集です。

論文である『Witchcraft and Its Transformations, c.1650~1750(魔術とその変容ー1650~1750)』に比べると格段に取っつきやすいですが、エッセイではなくあくまでも評論ですから、そうそう読みやすいわけではありません。

1月25日に出版されたばかりで、1月27,28日の第658回札響定期演奏会にボストリッジが客演したときに、急遽コーナーが設けられました。

とても美しい装本に惹かれて購入(サインもいただきました)したものです。

 

帯に、「ジェンダー、人種、死・・・・歌と自己が混じりあい、音楽は啓示となる」とあるように、テーマはアイデンティティをめぐる深い考察に貫かれています。

 

1 ゆらぐアイデンティティ ー演奏におけるジェンダー

  『タンクレディとクロリンダの戦い』(モンテヴェルディ 演劇音楽)

  『女の愛と生涯』(シューマン 連作歌曲)

  『カーリュー・リヴァー』(ブリテン 教会上演用寓話)

 の3作品をテキストに、その時代が求めた役割を逸脱する登場人物たちを考察して

 います。特に(聴いたことが無かった)『タンクレディとクロリンダ』で描かれる

 二重三重のひねりは、カーニヴァルの私的空間の余興としてなかなか魅力的です。

 そして、シューマンの描いた女性像から浮かび上がるクララへの想いの二重性は

 どう解釈したらよいのでしょう?

 ブリテンが能『隅田川』から受けたインスピレーションが生み出した『カーリュ

 ー・リヴァー』。男女の入れ替わりではなく、男性が面をかぶることで性を超越

 した存在になるという能の本質をどのように表現しているのか、聴く機会はなか

 なか巡ってきそうにないですね。

  ・・・・・・一筋縄ではいかない紹介、四苦八苦して本日はここまで

 

モンテヴェルディ:「タンクレディとクロリンダの戦い」

リナルド・アレッサンドリーニ率いるコンチェルト・イタリアーノ

テスト(語り手):ラファエル・ジョルダーニ

タンクレディ:マッテオ・ベロット

クロリンダ:モニカ・ピッチーニ