本『太陽諸島』 多和田葉子 講談社 2022年 初版

 

発行されてすぐに(10月)入手していましたが、ずるずると読むのを伸ばしていました。前2作は2020年の7月と12月に読み終わっています。

「群像」2021年10月~2022年7月に連載され、2022年2月にロシアのウクライナ侵攻が始まっています。

 

登場人物はお馴染みの

クヌート:デンマーク人・言語学者

ノラ:ドイツ人・環境問題に関心を持つ

アカッシュ:インド人・トランスジェンダー

ナヌーク:グリーンランドうまれのエスキモー・日本人を名乗る

Susanoo:鮨職人・失語症になりコペンハーゲンへ

Hiruko:日本人・パンスカ語の考案者

 

第一章 Hirukoは語る

  Hirukoの母国を目指してコペンハーゲンを出航。南へ向かう。

第二章 クヌートは語る

  リューゲン島、バルト海は袋小路。

第三章 アカッシュは語る

  国旗と亡命。次の寄港地はポーランド。

第四章 ノラは語る

  イザベラ・バードの写真。フェアトレード。シュチェチン。

第五章 Hirukoは語る(二)

  グダニスクへ。“オスカー”(『ブリキの太鼓』)

第六章 ナヌークは語る

  カリーニングラード(ロシアの飛び地)

第七章 Hirukoは語る(三)

  さまよえるオランダ人(?)。東インド会社。『ガリバー旅行記』

第八章 クヌートは語る(二)

  リガ。ブレヒトとヘラ。ハリスと唐人オキチ。

第九章 Susanooは語る

  タリン。櫛の女。新調のコート(ゴーゴリ)。

  鍛冶屋・ヤマタノオロチ・出雲伝説・古事記。

第十章 Hirukoは語る

  サンクトペテルブルク。スサノオとクシナダヒメ。

  クヌート・ヨハン・ヴィクトル・ラスムッセン(探検家・民俗学者)。

  旅は続く。

母語と非母語、公的言語(パンスカとか英語など)と私的言語(ヒルコとスサノオが使う日本語)、失語状態⇒言語獲得・・・などなど作者が追い続けている言語が主題になって、(予想していたように)母国を探すという第三部の主旋律は隅に押しやられたように思います。船はバルト海をひとまわりしてどこへ向かうのでしょうか。

言語上のスリリングなやり取りは期待したほどではなく、

『日本紀行』(イザベラ・バード)、『ブリキの太鼓』(ギュンター・グラス)

『ガリバー旅行記』(ジョナサン・スウィフト)、ベルトルト・ブレヒト

『外套』(ニコライ・V・ゴーゴリ)、『古事記』なども、もう少し料理してほしかった、というのはもちろん私の我がままでしょうね。