東寺の国宝に
「犍陀穀糸袈裟(けんだこくしけさ:七條綴れ織り袈裟)」があります。
開祖空海が師の恵果から授けられ日本にもたらされた唐時代の袈裟で、空海自身も「後七日御修法」の時に着用したとされています。
この袈裟は、僧衣のなかでもっとも尊いとされる糞掃衣*を模して織られていて、実物はほとんど崩れ落ちんばかりにぼろぼろです。
*糞掃衣(ふんぞうえ)
ごみとして捨てられた襤褸裂を、洗って縫い合わせて作られた粗末な袈裟を
もとにしている。僧衣としては襤褸の寄せ集めを模して、織られたり縫い合わ
されたりしたもの。
奈良の当麻寺にも、唐からの伝来品と思われる綴れ錦の名品「当麻曼荼羅」が伝わっています。
さて今週からCSで再放送されている華流古装劇に「当家主母」(日本語タイトル:清越坊の女たち)があります。
清朝の有力織元である清越坊を舞台に、代々伝えられてきた穀糸織の技術を守り、家を支える女性たちのものがたりです。
数々の大作を手掛けてきたプロデューサー于正の制作になるドラマで、彼のほかのドラマ同様、セット・小道具・衣装などの時代考証が行き届いていて、私はいつものように話の筋そっちのけで見入っています。
真夜中なのについ見てしまうのは、中国で織られていた穀糸の技法がどんなものか見たかったからです。ドラマが進むのにしたがって、清朝の綴れ錦の名品も垣間見られるのではないかと期待しています。
日本のつづれ織りは爪掻き本綴れ織と呼ばれるように、櫛形にけずられた織り手の爪先で絵緯糸(えぬきいと:模様を織り出す横糸)を整えます。②
ドラマで再現されている中国の織り方は、絵緯糸を整えるのに幅の狭い木の櫛のような道具を使っていることがわかりました。①
どちらの技法も、下に張った下絵を見ながら緯糸を通します。
つづれ織りはエジプトのコプト織やタピストリーでお馴染みのゴブラン織りと同じ手法です。
☆なお、ドラマ予告と“こく”の字が違っていますが、文字検索でこの字が
出なかったので、織物の名前として日本で使われている榖の字をあてました。
また、「瓔珞」でも取り上げられたことのある、明・清時代に流行った京劇の源流といわれる崑曲も見られます。崑曲は良家の子女のたしなみでもあったらしく、どちらのドラマでも、名家出身の女性の(主の心を捉える)特技として披露されています。
①20秒後あたりから穀糸の技法が見られます
女優さんたちは、当代の名工について織り方の手ほどきを受けたそうです
日本の技法
②爪掻き本綴れ織り 35秒頃から織り手の爪の先が接写されています