『フーコーの振り子』(ウンベルト・エーコ)を手に入れようと、本屋さんに行ってみましたが、いかんせん、文庫でさえ1999年の刊行。残念ながら、図書館から借りるしかないと諦めて、仕方なく手に取ったのは我が家にある朗読CDです。

もうずいぶん前、読めなくなったら楽しもうと揃えていた数あるCDのうち、テキストとして一番お気に入りなのは中島敦です。

漢籍に親しんだ中島らしく、漢文調の文体は酔わせるような美文で、頻出する漢語を思い浮かべつつ誰かに読んでもらうのは楽チンでヨロシイ。

 

たとえば『弟子(ていし)』(新潮社 朗読:井川比佐志 2003年)は、

後に孔子にすっかり私淑して一生をささげた弟子、主人公の子路が、弁舌ばかりの似非学者と断じた孔子に恥をかかせようと、無頼漢丸出しの格好で押しかけるところから始まります。この冒頭部分、例えが適切かどうかわかりませんが、ちょっと硬派な講談のような名調子です。

“蓬頭突鬢(ほうとうとつびん)”、“弦歌講誦(げんかこうしょう)”、“圜冠句履(えんかんこうり)”・・・・などなど、のっけから四文字熟語の大行進が続きます。(こういう本のお陰で「漢字抜けクイズ」が楽しめるチョキ)。

『李陵』(新潮社 朗読:日下武史 1999年)

『山月記』(新潮社 朗読:江守徹 1988年) 

ともに中国に題材を採ったいずれ劣らぬ名文です。

 

読書とはいえ、眼は文字を追いつつ無意識で自分の声で読んでいるわけで、また書かれたものは作者の呼吸を反映しているとか(喉の手術の後では、休ませるために読書禁止になるんですって!)。原文のリズムを再現するかのような朗読CDは、読み方のモデルとしてもとても参考になります。

 

*YouTubeから拾った一押しの江守徹さんの朗読は著作権で引っかかったらしい、残念