本『塞王の楯』 今村翔吾 集英社 2022年 第7刷

 

物語の発端は1573年8月の刀祢坂の戦いです。この戦で織田軍に攻め込まれた浅倉氏の城下町の領民は領主の館のある一乗谷の奥へと向かいますが、すでに領主は逃れた後で織田軍の一方的な勝利に終わります。

この時の戦乱で家族とはぐれた匡介を引き取ったのが穴太衆の頭のひとり飛田源斎で、彼は塞王と呼ばれる突出した石垣積の技術を持っています。匡介は後に次代の塞王へと成長して行きます。

一方鉄砲鍛冶の国友衆にも頭抜けた頭、砲仙こと国友三落がおり、やはり養子の彦九郎(げんくろう)が後を継ぐことになります。

彼らが対決する舞台が京極高次(きょうごくたかつぐ)の居城大津城です。

大津城は匡介が高次の頼みで石垣を補強した経緯から、秀吉亡き後の攻防のなかで西軍に囲まれた大津城を守るための懸(かかり)を引き受けます。

蛍大名と揶揄された京極高次夫妻の人となりをはじめ、好敵手でもある匡介と彦九郎を巡る登場人物たちはとても魅力的に描かれていてどんどん読ませます。

築城や石垣積、大筒(大砲)製造に関する技術の進歩や用語の類もさりげなく配されていて、物語の進行を妨げることはありません。

時代物をほとんど読まない私ですが、とても面白く読みました。