札幌もじわじわと感染者数が増えてきて、人込みは避けるべきだとの判断から引きこもり開始。

ならば、音楽を聴きながら好きな本を読みふける、というのが私の過ごし方です。

 

昨日は、鈴木秀美さんの知られざる古楽を流しつつ

本『琥珀捕り』 キアラン・カーソン 栩木(とちぎ)伸明訳 東京創元社 2004年

を引っ張り出して、お気に入りの章をつまみ食いしていました。

この本は、奇書『ハザール事典』のようにA~Zの項目の順に、古今東西(西に偏ってるけど)の物語を縦横無尽に引用し、並べるという趣向です。

《嘘八百大好きな》ワタクシとしては大好物の物語集なわけで、

ぱっと開いたページから入って前後に行ったり来たりしながら読むんです。

まぁ、この著者の博覧強記ぶりは呆れるほどで、ある一つの話から次々に連想する事柄が半端じゃないびっくり おまけに言葉遊びの類も。

翻訳者の栩木先生もたいへんだったでしょうね。・・・・・・・・・でも、なんだか楽しそう。

栩木先生の専攻はイェイツ以降のアイルランド文学・文化ですから、ややこしい言い回しにも慣れていらっしゃるようです。

カーソンはベルファスト生まれの詩人・作家。英語とゲール語の伝統歌謡にも通じていて、妖精がいるお話の国出身らしい、独特の話術を持っています。

単行本のままで読みたい本ですね。

 

目次は

Antipodes   対蹠地(正反対の場所)

  お話をせがむこどもたちにとうさんが語り始めるのは

   「嵐の夜、ビスケー湾でのこと、船長と船乗りたちが火を囲んで座っていた。

   突然、ひとりの船乗りが、船長、お話をしてくださいよ、と言った。そこで、

  船長は、こんなふうに語り始めた。嵐の夜、ビスケー湾でのこと・・・」 ←ね、

  これって昔話にある”繰り返しパターン”でしょ。散々じらして、やおら話が始ま

  る。とっかかりとしては巧い組み立てです。

この項でこれから先展開するテーマもちらりとのぞかせています。

それぞれ短いながら、たった一つのテーマではなく次々に多彩な主題が繰り出されるので、まとめるのは難しい。

   

特に気に入っているのは「Whereabouts」「Xerox」で語られるフェルメールの贋作者ファン・メーヘレンと、彼にまんまとしてやられるフェルメールの第一人者ブレディウス博士の話。

 

移り行く多彩なテーマの語り口のひとつとして「Quince」をあげてみましょう。

アプロディーテ=ウェヌス(ヴィーナス)がパリスからもらった黄金のリンゴはマルメロで、マルメロといえばへスぺリスの園にある黄金のリンゴ、そして、いならぶ男も真っ青になるほどの俊足で鳴らしたアタランタのエピソード(ヒポメネスとアタランタの変身譚)を語り、聖書に述べられているリンゴへとつながってゆきます。

  *ところで、「タップアク」とカナ書きされた聖書のリンゴ、「タプアッハ」

  だ!と細かいことに突っ込みを入れるワタクシ・・・・ヤナ奴だね。

 

以下、”Z”まで、目くるめくお話が連なっています。

連休中の蟄居にぴったりではないでしょうか。

Berenice    ベレニケ

Clepsydra   クレプシドラ:水時計

Delphinium   デルフィニューム

Ergot      エルゴット:麦角

Foxglove    キツネノテブクロ

Ganymede   ガニュメデス

Helicon     ヘリコーン

Io       イーオー

Jacinth     ジャシンス

Kipper     キッパー:燻製ニシン

Leyden     ライデン

Marigold    マリゴールド

Nemesis    ネメシス:思い上がりを罰する女神

Opium     アヘン

Pegasus    ペガサス

Quince     マルメロ

Ramification  ラミフィケーション:派生効果

Submarine   サブマリン:潜水艦

Tachygraphy  タチグラフィー:速記法

Undine     ウンディーネ:水の精

Veronica    ヴェロニカ

Whereabouts  行方

Xerox      ゼロックス

Yarn       ヤーン

Zoetrope    ゾエトロウプ:回転のぞき絵

   出典について

訳者あとがき

解説 琥珀がつなぐ物語  柴田元幸

   この解説がまた好いんですラブ

 

 

 

 

リブログで取り上げた本から読んだのは、村山斉さんの宇宙ものと『超常現象の科学』の3冊でした。

実は、違うテーマで書くつもりでリブログしたのですが、気が変わって消そうとしたけれど消えてくれず、書き換えるのが面倒で・・・・・・・ショボーン はぁ、失敗した。

 

蟄居生活には、科学ものではなく、ややこしくて発見に満ちた物語がよろしい。