本『刺繍する少女』 小川洋子 角川文庫 2020年18版

 

1996年刊行の単行本の文庫版です。

「刺繍する少女」

  少年の時に別荘地でであった少女と再会したのは、母に付き添ったホスピス

  (?)で相変わらず、物静かに刺繍をしている。刺繍する少女とは何者だった

  のか?

「森の奥で燃えるもの」

  のっけから出てくる「収容所へようこそ」のことばにぎょっとします。

  収容される者はぜんまい腺なるものを耳から抜かれ、”登録番号”が付される。

  収容所に番号!

  【収容所内の暮しから、皮肉なことに私はキブツを連想。食堂、果樹園、美術

  館に野外劇場・・・快適に暮らすために必要なものはすべて揃っている】

  ”時間を懐かしむ”、”長い旅をしてやってきた”場所を、秘密を守るかのように

  囲んでいるのは森。

「美少女コンテスト」

  あかちゃんコンクールに優勝したわたしは、長じて母の見栄から美少女コンテ

  ストなるものに出場することになる。この少女の行く末が「亡き王女のための

  刺繍」の最後の2行につながるように感じたのは私だけ?

「ケーキのかけら」

  ある家の整理を頼まれた大学生のわたしは、てっきり遺品整理だと思っていた

  のですが・・・・・

「図鑑」

  読者がいないと思しい『増補・寄生虫図鑑』に魅入られるわたし。

  これぞ、小川洋子ワールド!ちょっと内臓が痒くなるような、閲覧注意な

  小説です。

「アリア」

  僕は年に一度、誕生日に叔母のもとを訪れ、声楽家としては大成しなかった

  彼女の歌を聴く。叔母がイタリアに出発する日のできごとなど、蘇る僕の記憶。

「キリンの解剖」

  わたしが付き合っているのは基礎医学の研究者で、毎日解剖に明け暮れている。

  ジョギング中に見学することになった制作中のクレーンから、解剖されたキリン

  の美しい輪郭を思い起こすわたし。

「ハウス・クリーニングの世界」

  さしたる個性も無いように思えるハウス・クリーニングという仕事から

  編み出された唯一無二の物語。

「トランジット」

  母方の祖父の故郷フランス、モンパルナス近郊の町からの帰り、わたしが

  香港でつかの間出会った老人は、これからパリへ向かうところで、足元の

  大きな荷物は収集した古い木馬だという。たどたどしい会話を交わしながら、

  祖父の来し方を振り返る。

「第三火曜日の発作」

  ぜんそく患者の会の会報に、偽名でたびたび投稿するのがわたしの楽しみの

  ひとつ。投稿するエピソードは、伝記や文学全集のうしろにある年表に倣って

  設定する。第三火曜日は検診の日で、あるとき男に出会う。しばらく続いた

  男との関係も、激しい発作のあと途絶える。

 

なんといっても「キリンの解剖」が一番印象に残りました。そして、本当はキィ・ワードを明かしたい誘惑に駆られる「トランジット」も。

 

小川洋子さんの作品は、言葉にひそめた意味合いが相互に響きあって緻密に構成されており、内容をどこまで紹介したらよいか判断するのがとても難しい。

(特に短編が)

親しい友人に話すのならともかく、通り一遍の、勘所を外したそっけない要約をするしかないのは、なんとも歯がゆいのですが・・・・・・。

それほど熱心な読者ではなかった私ですが、小川洋子の世界をもう少し彷徨ってみようかと思っています。