映画「鑑定士と顔のない依頼人」  同名の小説は人文書院発行


監督:ジュゼッペ・トルナトーレ


オークショネア ヴァージル・オールドマン: ジェフリー・ラッシュ

画家オールドマンの協力者 ビリー・ホイッスラー: ドナルド・サザーランド

機械修理工の青年 ロバート・ラルキン:  ジム・スタージェス

謎の依頼人 クレア・イベットソン:      シルヴィア・ホークス

屋敷の管理人 フレッド:            フィリップ・ジャクソン


この映画の主人公は、もちろんオークショネア・オールドマンと依頼人クレアの筈ですが、

私にとっては、オールドマンの秘密の部屋を飾る、有名無名の画家の手になる肖像画です。


アニョーロ・ブロンズィーノ、ダンテ・ガブリエル・ロセッテイ、(バーン・ジョーンズもあったような)

オーギュスト・ルノワール、アメデオ・モジリアニなどは遠目でもその特徴で見分けがつきましたが、

フラゴナールやドゥ・ラトゥールやダヴィッドやブーシェ風、ティツィアーノやジョルジョーネらしきもの、

フランドルの画家たち、ホルバイン風、クラナッハ風、ピエロ・デ・ラ・フランチェスカ・・・・などなど。


なかでもブロンズィーニのウッフィツイ美術館にある筈の「エレオノーラ・ディ・トレド」像や、

ベルリン国立絵画館に納まっているペトゥルス・クリストゥスの「若い女の肖像」には、ビックリ仰天。

映画の冒頭、「若い女の・・・」らしきものが酷い状態でガラクタの中に紛れている・・・という設定で、

しかもこれを贋作として、協力者のホイッスラー(名前からして画家っぽい!)に安く競り落とさせ、

買い戻して、自らのコレクションに加える・・・・なんて、魑魅魍魎の跋扈するオークションならではの

展開です。

一応、推理仕立てなので、結末を明かすのはルール違反ですから、筋はほとんど紹介できません。

繰り返されるセリフや、不思議な小人の女性などから、話の行く末は簡単に推理出来たものの、

解っても面白かったのは、私が、さりげなく壁をうずめる絵画に夢中になったからです。


「エレオノーラ・ディ・トレド」は息子と一緒の肖像画の筈ですが、ちらりと映った限りでは、一人に

見えました。エレオノーラは、メディチ家のコジモの妻です。

私の大事な、ウンベルト・エーコの「美の歴史」の表紙を飾る、魅惑的なルネッサンスの婦人です。


で、ここからは私の妄想。

ジュゼッペ・トルナトーレは、もちろん美術に関しても薀蓄があるでしょうが、この映画を構想するにあたり、オールドマンの秘密の小部屋を飾る絵画を決めるのに、この「美の歴史」も参考にしたのではないか・・・・と。それほど「美の歴史」は魅力的な1冊です。


実は、絵画についての言及があるかもしれないとの思いから、珍しくパンフレットと監督自身による

小説を購入したのですが、目論見は大ハズレしょぼん ざぁ~んねんでした。

小学生のうちから、美術館で本物に接しているイタリア人には、殊更説明の要らないものだったの

かもしれません。


ただ今、映画を反芻しつつ、小説をよんでいるところです。

この表紙がなかなか凝っていて、{若い女の・・・」の目の部分がカヴァーの四角なマドから覗いて

いるというデザインです。西洋人にしては珍しいアーモンド形の一重まぶたが効いています。

CDハンスイエルク・シェレンベルガー(オーボエ)、マルギット=アナ・シュース(ハープ)、

クラウス・シュトール(ヴィオローネ)によるヨハン・セバスチャン&カール・フィリップ・エマヌエルの

バッハ親子のソナタ集を聴きながら音譜