入院16日目① 水曜日
いつも通り囲碁兄くんが部屋に来てそのままリハビリ室へ。
今日は脚のトレーニングは無し、との事。
立ちながらの囲碁にしましょう、ただし腕に重りを着けてもらいます、と言われた。
生粋の腕力非力野郎な私は戸惑った。
そんな物を着けたら上手く囲碁を打てない。腕が上がらない。
しっかり両腕に重りが着けられた。重りというくらいなので重かった。
左はまだ良い。
昨日、脳筋くんが持って来た3.5kgのダンベルも腕の力だけで上げ下げが余裕だった。
右が異常に弱い。
3.5kgのダンベルだと腕はもちろん全身の力、脚ヒザ腰の力を使わないと上げ下げができない程。
いつもは気分や打ちたい場所に近い方の腕と指を使うが、結局今日は全部左で碁石を打った。
ちなみに両腕とも胸ほどの高さを常にキープする状態。
支えは使用禁止。
頭が働くのか未知数なスタート。
私はいつもの白番になった。
しばらくはゆるりと盤面が進む。
というかずっとゆるりと進む。
今日の囲碁兄くんはいつもと違った。目的を持って攻めてきているのは明白だった。
正直言って、初心者同士で対局すれば勝てる見込みは十分あると思う。
まぁソレを言うと私も独学で少しかじった初心者ではある。
ただ、これが対戦相手がお互いしかいない恐怖。
囲碁兄くんがレベルを上げると私もギアが入りそれに対応する。
私の取り戻す程に無いカンですら勝手に働く。
兄くんは対局中に問うてきた。「好きな物っていつ食べる派ですか?」
??どうしたいきなり?トチ狂ったのか?
最後だと伝えると、
「やっぱり……」
終局後も、
「人の刺し方が上手くなりましたね……」
等の供述を繰り返していた。
やめてくれ、聞いてた人に私の人格が疑われる。普通に打ち返していただけだ…。
「今日、僕いつもと違う打ち方したつもりなんですけどダメだった…。お師匠は…何か強くなってませんか??」
今日ずっとお師匠呼びだったのはこの際置いておく。
私自身全く分からない。自分の力量が、棋力が。囲碁兄くんに合わせただけだ。
明日は兄くんが得意な将棋になるそうだ。
どう足掻いても負ける…将棋に関しては20年ほど指していない。
囲碁は10年ぶりだったけど、将棋に関してはマトモに指してたのは子どもの時分だ。流石になんともデキない。