「毒親」という言葉が大嫌い。


その言葉を聞く度に、胸がざわざわしてしまうから。

もしかして私の母は、毒親だったのではないだろうか、と。


そして私自身も、毒親なのかも知れない、と。


三歳から弾き始めたピアノの練習が、本当に苦痛だった。中途半端に上手だった私は、先生の勧めでヤマハの専門コースに通っていた。

中途半端にしか上手でなかった私にとって、とてもレベルの高いレッスンとメンバーに付いていくのは本当に本当に大変で、それまで好きだったピアノが嫌いになった。


そして母は、狂気の母となった。


学校から帰って来て、すぐに開始される何時間にも及ぶ練習。

上手く弾けないと、怒鳴られ容赦なく閉められるピアノの蓋。蹴り飛ばされる椅子。


「音楽」はいつしか「音我苦」に変わり、私はピアノが大嫌いになり、遂に母が私のピアノの才能に見切りをつけ、専門コースを辞めた小学三年生から、26歳になるまで、ピアノに触れる事が出来なくなった。



ここまでの話を切り取れば、母は間違いなく「毒親」と言われてしまうだろう。



でも私の母は、間違いなく私を心から愛していて、誰よりも私に寄り添う母でもある。

母は、別に私が自分の期待に応えられなくても、がっかりはしただろうけれど、私を愛する事を止めたりはしなかった。


毎日私の世話をし続け、私が本当に苦しい時は精一杯心に寄り添ってくれた。

ワンオペ育児に娘がいっぱいいっぱいになっていると、取るものもとりあえず、遠くからでも駆けつけてくれる母でもあった。


地頭が良くて、どんな習い事の先生からも褒められる弟に対して、凡人でしかない私に「あなたは、真面目に努力出来る子。能力が高い事よりも、それはずっと大事な事だから、私はあなたを信じている」と言い続けた母でもあった。



だから、本当に気軽に「毒親」「毒母」「親ガチャ」という言葉をマスメディアで発しないで。



誰もが羨むキー局のアナウンサーになった貴方も、誰もが名前を知っているタレントの貴方も、苦しいのはよく分かったから。


でも貴方のその知性は、才気煥発な貴方の現在の活躍は、お母様の厳しい教育の賜物ではないの?

本当に貴方のお母様は「毒親」でしか、なかったの?


社会的成功者である貴方方が、影響力のある貴方方が「毒親」「毒母」という言葉を発する度に、凡人でしかない私も何故か苦しくなる。


私が今辛いのは、母のせいなのか。

母の育て方のせいで、私は生き辛いのか、と。

こんな言葉を知らなければ、苦しくなったりしなかったのに、と。


そして、浅瀬で私達がバチャバチャ「苦しい、助けて」と足掻いていたら、ずっと沖の遠くにいる、毎日親から意味も無く殴られ、ご飯も食べさせて貰えない深刻な状況の、本当に一刻も早く助けなければいけない子達は、どうしたら良いのか、と。