今は昔、ある鄙の里に、いたくまめやかにして、品行まさしくなる女子中学生ありけり。
 年月重なりて、そのまめやかなる女子、おのこを産みけり。その男子、成長して中学生となりにけり。


ひらめき「ねえ、土曜日は学校の帰りに皆でマクドに寄ったり、サイゼリヤに行ったりしないの?」

えー?「何言っているの。それ校則で禁止だよ」

不安「えっ、マクドの何があかんの。
じゃあコンビニに寄って、からあげクンとかおにぎりの食べ歩きは?お腹すくやん」

えー?「そもそも、制服で寄り道が禁止だよ」

ポーンポーンポーンポーンポーンポーンポーンポーンポーンポーンポーンポーンポーン


信じられん。
母なぞ、制服のままゲーセンに寄って「うおー、いけー」とか叫びながら友との対戦に励んでいたぞ。

ポーン「うそやん。ママは、至って真面目な中学生だったけれど、平日の帰りは友達とコンビニで買い食いからの歩き食べ、土曜日はマクドに寄って、80円バーガーを2個購入し、ひたすら駄弁る、を毎週のルーティンとしていたのに。
そもそも制服で登校すること以外、校則なぞ無かったぞ」

アセアセ「ええっ、信じられない。全部駄目だよ」

ひらめき「でも、◯◯駅まで来たら先生の監視の目もないし、帰りにマクドやサイゼに寄ってもバレないよ」

アセアセ「絶対にやらないよ。
そんなの日曜日にやれば良いじゃん」

何と真面目な子なのだ。
「今日も生理です。何なら、不順で毎日生理です」と爽やかに言い切り、体育教師の舌打ちをものともせず、六年間一度もプール授業に参加しなかった私の子とも思えぬ。

あんぐり「そう言えば、学校に出前を頼んだ子がいて、さすがに怒られていたわ」

アセアセ「信じられない。それ、退学ものだよ。
大体、うちが寄り道して、バレたらママも学校に呼び出されて、怒られてるよ。
いいの?それで」


夕暮れが静かに終わりを告げ、窓の外にはじわじわと夜の気配が満ちていく。 
生徒指導室には重苦しい沈黙が垂れこめ、時折教師の溜め息だけが響く。
うなだれる母子を前に、学年主任がようやく沈黙を破った。

お父さん「本人曰く、お母様から勧められて、友達を誘ってマクドナルドに立ち寄った、と聞いておりますが、本当でしょうか」

不安「はい、その通りでございまする。
誠に申し訳ございません」

お父さん「当校の校則は、ご存知ですよね。
それなのに、寄り道をススメられたのは何か理由がお有りですか」

上目遣いで、そっと前を窺う私。
担任、学年主任、そして校長が、呆れ返った様子で、刺すような視線を母子に向けてくる。


不安「いや、あの、特に理由は無いであります。
ただ、寄り道って楽しいよなあ、と思って。
本当に申し訳ございません」

母の回答に天を仰ぎ、嘆息を漏らす教師陣。

お父さん「処分は、追って連絡します。
それまで、自宅待機で」


笑い泣き「いやあ、お許しくだせえ先生様。
やめて。掲示板に1年◯組幼男子、右記の者を一ヶ月の停学処分に処する、という文書を貼り出さないで。
ごめんなさい。絶対に、寄り道なんか息子に勧めません」

イラッ「ほら、想像しただけで最悪じゃん。
うち、そんな事で怒られたくないもんね。
ママってさあ、聞いていたらとんでもない中学生だったよね」

そうか。今まで私は、自分は至って真面目な小市民だと認識してきたが、認知の歪みだったのか。
ひょっとして、制服のままゲーセンに行き、道でダラダラ歩き食べをし、プール授業を全部サボるとんでもねえ奴だったのか滝汗
だって全然厳しい学校じゃなかったもん。
成績さえ取っていたら、大体の事は笑って見てくれていたもん、先生達。
皆していたもん。多分………。

今は昔、いとおろかなる女子の中学生ありけり。年ごろを経て、その女子、いとまめやかなる男子を産みたりける。