かつて私は、幼い受験生だった。

幼い受験生は、成績が悪いにも関わらず、何故か自分は落ちるはずがない、合格するはずだ、という謎の自信に支配されていた。

そして、見事に前受け校から不合格をくらい、号泣して目が覚め、ようやく受験生となった。


時を経て、私は幼い受験生の母となった。

幼い息子は、合格率20%を叩き出しても「この20%、俺じゃね?」と思っているようなお花畑男子で、母は目眩と吐き気に悩まされた。


熱望校の入試まで、一ヶ月。

問題を解くスピードは亀の歩み、やっと覚えた社会も光の速さで忘却の彼方、以前出来たはずの算数の問題がなぜか出来ない、という悲惨な状況に何度も打ちのめされながら、何度も机に突っ伏しながらも、親子で繰り返し繰り返し反復する日々。


上位層は遥か彼方で、もう見えない。

それでも、平凡で処理能力の遅い息子でも、ようやく焦り出し、社会はようやく合格者平均を超え、算数はようやく熱望校の過去問で7割得点を達成。

すわ、合格最低点を超えられるか、と固唾を飲んで見守るも、最近手を掛けられていなかった理科で、まさかのドボン。


それでも、コツコツやって来た社会で少し成果を得られた事、何よりも苦戦続きだった熱望校の算数に、ようやく喰らいつけた事が嬉しくて、親子で喜び合った。


多分、熱望校は相当厳しい戦いになるだろう。

それでも、親子で最後まで諦めずに、大好きな学校に挑んだこの時間は、とても大切で濃密な忘れる事の無い時間だと思うのだ。


長い時を経ても、未だに色鮮やかに思い出す。

前受け校に落ちて号泣したあの瞬間。


そして、第一志望校の合格を母から伝えられ、大喜びして号泣したあの瞬間。


幼いながらも、凄く頑張って自らの手でようやく掴んだ合格というご褒美が、第一志望校がおいで、と微笑んで手招きしてくれたあの瞬間が、とてつもなく嬉しかったのだ。


どんな結果になろうとも、きっと君の人生で忘れられない瞬間がもうすぐ現れる。


そして母は、こんなに厳しい状況なのに、こんなに頑張っているのだから、きっと君が笑って過ごせる学校に、行って良かった、と思える学校にご縁が有る筈だ、と何故か頑なに信じている。

そして早稲アカとTOMASの先生を、息が止まる位驚かせてやりたい、と思う。


未だに「地頭と時の部屋」は出現しない。

それでも、少しずつようやく受験生の顔になって来た君と、母もここまでやり切った、と言い切れる残り30日を過ごそうと思う。


最後の一ヶ月。

TOMASへの課金も、後悔しない位詰め込んだ。

早く「地頭と時の部屋」よ。

出現してくれ。