ぼくは勉強ができない。

塾に行って、散々出来る奴に打ちのめされ、5年生までは何とか努力で保って来た成績も、だだ下がり。

凄く苦労して覚えた社会は、あっという間に忘却の彼方。算数は、ちょっと捻られると見事に解けない。国語に至っては、目も当てられない。


合不合判定テストでは、不合、不合、と無慈悲に叫ばれ、泣きたくなる。


何なんだこれは。

三年間頑張って来て、何でこんな目に遭っているのだ。


今日もママは、40点の熱望校の過去問を前に溜め息をつき、泣きそうな顔をする。


「本当に間に合うのかなあ。

志望校、下げた方が良いのかなあ」


頼むからやめてくれ。

自分の不甲斐なさ、出来なさに一番悔しい思いをしているのは、このぼくなのだ。


憧れだったNNを諦め、チャレンジ校を諦め、下降する偏差値に途方に暮れ、その上熱望校まで諦めたら、ぼくの三年間は、色々なものを犠牲にして、何度も止めたくなりながらも、泣きながら踏ん張って来たこの日々は、がらがらと音を立てて崩れてしまう。


ぼくは勉強ができない。

そんな事は、自分が一番分かっている。


それでも、ぼくとママのNNだけは、なにがなんでも守り抜こう、熱望校に通いたい、この努力の日々をなにがなんでも実らせてやる、と思っているのだから。

挫けそうになりながらも、何とか踏ん張っているのだから。


「ママさあ、熱望校に7回も行って、いつも本当に素敵な学校、本当に大好き、と思って帰って来るの。熱望校、本当に素敵だよね」


ママがうっとりと言うたび、ぼくも素敵だなあ、と思っていた熱望校の良さがどんどん際立ち、色鮮やかに浮かび上がり、いつの間にか第一志望校に、ぼくのNN校になったのだから。


あんなに優しげに穏やかに微笑んでいる熱望校が、過去問となると、途端にぼくに牙を剥く。


ぼくは勉強ができない。

それでも、ぼくとママのNNを諦める理由にはならない。

だから、そんな悲しそうな顔をしないで。

あともう少しで終わるこの勝負を、最後まで見届けて。

最後は二人で笑顔の花を、匂い立つほどの満開の桜を咲かせようよ。


あともう少し、あともう少し。

がんばれ、がんばれ幼男子。