「おかえり。帰って来たの」
私が帰宅すると、部屋から飛び出して来て、玄関まで出迎えてくれる彼。
私が移動すると後ろを付いて回り、座ると膝に頭を乗せてくる。
「今週、珍しくマダオは出張なの。
水曜日まで、帰って来ないわ」
彼の額に口づけながら囁くと、嬉しそうに目を細めた。
幼男子が夜遅くまでリビングで勉強している時も、彼はずっと側にいる。
時折、幼男子や母に体をすり寄せながら。
「毎日よく頑張っているね。
僕も応援しているよ」
幼男子を大きな瞳でじっと見つめ、側を離れない彼。
対するマダオは、常にさっさと一人高いびき。
「パパなんかより、ずっと好きだよ。
世界で二番目に大好き」
彼の頭を撫でながら、呟く幼男子。
彼も、嬉しそうに目を細める。
彼と息子の仲も良好だ。
夜寝る時は、いつも部屋まで付いて来て、仲良く三人で同衾。
朝目覚めると
「おはよう。遅いよ。待っていたよ」
と全身で喜びを表してくれる彼。
私が忙しくて構えないと、イタズラを仕掛けてくる困った彼。怒りたいけれど、つぶらな瞳でじっと見つめられると、私の怒りはとろとろに溶けてしまう。
「もう、やらないでね」
優しく頭を撫でる私は、既に彼に篭絡されているのだろう。
幼男子の事が心配で、泣いていた時も、幼男子と喧嘩した夜も、マダオは我関せずで寝ていたけれど、彼はおろおろと私の涙を舐め、幼男子と私の喧嘩を仲裁する。
「仲良くして。ほら、僕を見て」
彼の頭を撫でていたら、体に口づけていたら、強張っていた気持ちも解きほぐされ、温かい気持ちで胸が一杯になる。
いつしか、わたしのスマホのフォルダは、彼と幼男子の写真で一杯になった。
彼の愛に応える為、今日も私は高騰している朝採れレタスをかごに放り込む。
マダオのアイス代を犠牲にして。
菜食主義者の彼の喜ぶ顔が、目に浮かぶ。
母と共に、幼男子の勉強にいつも伴走してくれる彼。
お漏らししたり、壁紙を齧っちゃういらずらっ子なふわふわのもふもふ。
幼男子に「お漏らしカステラ、略してオモカス」と不名誉な名をつけられた彼。
君の名は、メルちゃん。
