イメージトレーニングはバッチリだった筈なのに、早くもオートレーサーの夢は潰えた私。
担当教官が私に投げかけた台詞は「一緒に世界に羽ばたこうじゃないか」ではなく、まさかの「アクセルは踏まなくて良いから。横も後ろも見なくて良いから」だった![]()
分かっていた事だけれど、究極の運痴である私には、やはり運転の才能は無いらしい![]()
どうやら、皆最初からアクセルを踏ませて貰えるらしいのだ![]()
担当教官にとって、私は完全に「手を焼く面倒な生徒」だろう![]()
あかん、せめて感じ良く愛想良くしないと、怒られまくる![]()
ただでさえ自分に嫌気が差しているのに、怒られまくったら、確実に通わなくなる![]()
私のなけなしの26万円、無駄にする訳にはいかない。
この頃の私は、20時まで会議が有る木曜日を除いて、平日は終業後会社の近くのバス停から教習所に直行。
休日は、一日中教習所に入り浸る生活。
ABCクッキングも、合コンもデートも免許取得のその日まで、全てお預け![]()
何としてでも、免許(AT限定)を取ってやる。
何としてでも、26万円の元を取ってやる。
そして私は、ミニスカに顔面フル塗装で教習所へ向かうのだった。
若かりし頃は見事な大根足ではなかった
今ミニスカなぞ履こうものなら「迷惑防止条例」にて逮捕案件
途中、幼馴染のおばちゃんに遭遇。
「へっぽこちゃん、お母さんから聞いてるで。免許取るのに、苦労してるんやってな。
そんな可愛らしい格好で、どこ行くの?」
「おばちゃん、どうやら私は運転の才能は無いみたいやねん。
かくなる上は、少しでも教官と楽しく過ごせるよう、若い女性という唯一の武器を活かして、ミニスカ、マスカラ盛り盛りで教習所に行くんや」
「よう分からんけれど、おきばり。
へっぽこちゃんの教習所話、面白過ぎて家で話題やで。会話の無い夫婦に、話題を提供してくれてありがとう」
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鬼母め。面白可笑しく、吹聴してやがる![]()
思わぬ形で、人様のお役に立てて何よりだわ![]()
そして私は、恐れを知らぬまま担当教官に宣言をした。
「先生、私は人の2倍は迷惑を掛けていると思うねん。私が先生の立場だったら、同じ給料で何でこんな手の掛かる奴の担当やねん、最悪や、と思うと思う。
なので、私は少しでも楽しく先生と教習出来るよう努めようと思います。
ミニスカ、化粧盛り盛りで頑張るので、私の運転にイライラしても怒らないでね」
「なかなか良い心掛けだけれど、君一つ大きな勘違いをしているで。
君に掛ける労力は、人の5倍や。
はっきり言って「10年に2人くらいの逸材」や。しかももう1人は、もっとおばちゃんや。
こんな若い子で、こんなに鈍臭い子おらへん」
「うわあ、ショック。どうせなら、10年に2人の奇跡の美貌、とか10年に2人の明晰なる頭脳が良かったあ。
でも、10年に2人の逸材なら、先生にとって私は「記憶に残る忘れられへんオンナ」になるね。長い付き合いになると思うので、宜しくお願いします」
「どんだけポジティブやねん。
前向きなんは良いけれど、もうすぐ角やで。
ハンドル回して」
「うわあ、ぶつかるよう。
どんだけ回して良いか、全然分からない」
「何でハンドル回しながら、アクセルを勢いよく踏み込むんや。そら、ぶつかるんわ」
「だって、手を動かしたら足も一緒に動くやん。別々とか無理やんか。
嗚呼、教習所に通う前、迸る才能に先生からオートレーサーにスカウトされるイメージトレーニングをしていたのに。台無しや」
「安心せえ。
君がオートレーサーになる事なぞ、例え地球が三角になっても無いわ。究極の時間の無駄や」
深まる担当教官との仲。
一向に上達しない運転スキル![]()
漸く担当教官が「次は仮免の試験にしよう」と言った頃。私の補講時間は既に11時間にのぼり、教習原簿は2枚目に上貼りされていた。