運動でBDNF(脳由来神経栄養因子)の分泌が更新し、脳細胞を保護~修復するというメカニズムが、運動による脳の老化防止の機序として推定されていますが、これより一歩踏み込んだ分子レベルの機構に関する報告です。あくまで動物実験なので、(マスコミはすぐに短絡しがちですが)、BDNFとの関係や人間でどうなのかに関しては引き続き研究の進展を待つ必要があります。まあ現象面では、運動による記憶力保持や認知能力保持効果は証明されているので、「機序がはっきりするまでは運動しないゼ」などと考える必要もありませんが。PubMedでちょっと探したのですが原論文見つからないのでとりあえず、新聞記事のみ紹介します。

***********************
2011年8月9日 提供:毎日新聞社

脳:「若返り」解明 認知症治療に応用も--産総研

 老化で減る脳の神経幹細胞を増やす仕組みを産業技術総合研究所(茨城県つくば市)と筑波大の研究チームが解 明し、8日発表した。運動をすると、特定の細胞から分泌されるたんぱく質の因子(Wnt3)が増え、これが起点となって神経が新生する現象をマウスの実験 で突き止めた。うつ病や認知症の新治療法や創薬開発に役立つという。米実験生物学誌に掲載された。

 学習や記憶を担う脳の領域「海馬」にあ る神経幹細胞は老化で数が減り、細胞を生み出す力も衰える。実験では、生後22カ月の老齢マウスと、9週間の若いマウスの海馬からアストロサイト細胞(神 経幹細胞を支える細胞)を取り出して培養。比較すると老齢マウスのWnt3産出量は若いマウスの30分の1しかなかった。さらに、マウスにベルトコンベ ヤー上で毎日10分間2回ずつ走らせる運動を2週間続けたところ、運動前と比べてWnt3産出量は若いマウスで10~15倍、老齢マウスでは20~30倍 と飛躍的に増えた。

 運動すると脳が活性化する事実は知られているが、老化で低下した神経を作る機能が復活し脳の「若返り」につながる仕組 みを細胞レベルで解明したのは初。研究チームの産総研幹細胞工学研究センターの桑原知子研究員は「アストロサイト細胞を活性化させれば神経幹細胞を呼び戻 すことができ創薬開発などに応用できる」と説明している。【安味伸一】