韓国「福島汚染水騒動」は収束しない、根強い「日本だから信じられない」の声

https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/75511

2023.6.9(金)平井 敏晴

尹政権批判を繰り広げる野党、政局の材料に

 今は小康状態にあると思ったら、大きな間違いである。韓国での「福島汚染水」騒動は一向に収まる気配がない。

 東京電力福島第1原子力発電所の処理水を海洋に放出する計画を巡り、5月21日から6日間の日程で韓国から視察団が派遣された。視察団の派遣については韓国内で議論が巻き起こっているといった認識が日本でもあるようだが、それは議論などと言えるものではない。私がここであえて、「騒動」と書いているのはそのためだ。

 全日程を終えて26日に帰国した視察団を待ち受けていたのは、最大野党である「共に民主党」から浴びせられる批判である。

 その日、まだ視察団が帰国の途にもついていない午前中に、党幹部20人がソウル市中心部の光化門に集結していた。李舜臣(イ・スンシン)将軍の銅像前に並び、「福島原発汚染水の海洋投棄および水産物輸入反対の国民署名運動発起式」と称するセレモニーを執り行っていたのだ。李舜臣将軍は文禄・慶長の役で日本軍を撃退して戦死した韓国の英雄である。そうした場所でセレモニーを開催していることからして、日本批判であることは明確だ。

 その中央には共に民主党の李在明(イ・ジェミョン)代表の姿があった。「政府視察団が汚染水の安全性を確認することになれば、結局は危険性がないということを間接的に認めることになり、福島近郊の海域から水揚げされた水産物の輸入禁止措置の根拠を失いかねない」と訴えていた。

 つまり、原発処理水の海洋放出についてどの程度安全であるかどうかを確認することすらナンセンスというのだ。しかもこのシュプレヒコールが挙がったのは、視察結果の発表前であることに留意していただきたい。結局は、処理水放出の問題を政局の材料にしているのだ。まるで科学的根拠など関係ないとでもいうように、視察団を派遣した尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権と与党を批判している。

 それにしても、どうしてこれほどまでの批判が起きるのだろうか。

 

韓国の野党「共に民主党」の李在明代表(中央)と党員らは、福島第1原子力発電所の処理水放出計画に反対する署名活動に参加した(写真:AP/アフロ)


「日本だから信じられない」という不信感

 汚染水騒動が収まらない背景には、韓国社会が持ち続ける日本社会への不信感が挙げられる。

 視察団が派遣される数日前に自宅でテレビをつけているときのことだ。ある報道番組で視察団が派遣される意義について解説していた。財閥の一つである現代グループが運営する峨山政策研究所に在籍する女性研究員だったと記憶しているが、韓国社会では「日本だから信じられない」という不信感が根強いと、彼女ははっきり語っていた。

 この言葉は今でも耳に焼き付いている。韓国で悪名高き印籠のように使われてきた「日本」がまたここでも登場したのだ。いくら視察団が論理的に説明したところで、この騒動が収まるはずはない。

 それに、処理水のことを「汚染水」と言い続けているのも、日本への不信感の強さを物語っている。5月12日には「汚染水」ではなく「汚染処理水」と呼ぶことを政府が検討していると報じられると、与党内からも疑問の声が上がった。

 日本ブームの韓国ではあるが、私の教え子も不安を抱えている。授業の休み時間に「旅行で日本に行きたいと思うんですけど、汚染水の放出は大丈夫なんですか」と質問されることがある。

 また厄介な質問をしてくるものだ。そんなことは素人の私が判断できるはずもない。「追加で検証する必要はない」という国際原子力機関(IAEA)の評価を信じるかどうかの問題だ。そのため私は「不安なら日本に行かない方がいいよ」とアドバイスする。

 また、北関東や南東北の各県も大丈夫なのかと相談される。家族が心配しているというのだ。けんかになって「人が行くところではない」と怒鳴られたという学生もいる。売り言葉に買い言葉なのだろうが、残念だ。ちなみに私は栃木県出身なので、そういう話をされると決して心中は穏やかではない。

 

韓国では福島第1原子力発電所の処理水放出計画に反対する集会が繰り返し開かれている(写真:AP/アフロ)


韓国社会では「噂になったらそれは真実」


 韓国では、噂が噂を呼ぶ。だからどんどん話が拡大する。それに「噂になったらそれは真実」と考えるのだと韓国人はよく口にする。福島原発事故とその処理水の海洋放出とは、すでにそうした思考回路の中で捉えられている。そうなってしまうと、公的機関が発表する測定値や視察結果などが「安全」を示すものであったとしても、ほとんど信じてもらえない。

 そのことは尹政権もよく分かっている。テレビのコマーシャルでは、噂について「出所は確認したのか」と釘をさす公的機関の広報も見られるほどだ。このコマーシャルを初めて見たときは「何をこんなことを改まって広報するんだ?」と思ったが、韓国社会で暮らしていると、あぜんとする噂をよく耳にする。

「輸出額は北朝鮮が韓国より高い」と真顔で話されたこともある。いくら何でもそれはないだろうと意見すると、「メディアは報道しないけど、そうなんですよ」と一歩も譲らない。これでは「出所を確認したのか」と言う気にもならない。

 

最高水準の科学者も噂を払拭できず

 噂は政治にも大々的に利用される。記憶に新しいのは、2年前に行われたソウル市と釜山市の市長選挙である。1年後に控える大統領選挙の前哨戦でもあり、注目を浴びた。当時政権を担っていた「共に民主党」の候補が不利とされていて、そのときに対立候補で現在は政権与党となった「国民の力」の候補に不動産投機疑惑が取り沙汰された。

 選挙結果はどちらも「国民の力」の候補が当選したが、不思議なことに、その疑惑は選挙の終結とともにすっかり消えた。なぜ敗れた側は追及しないのか。私は選挙前にあるテレビ番組にリモート出演した際に、「国民の力」の候補が当選したらどうなるかと質問を投げられた。そこで「疑惑の追及があるんでしょう」と答えたのだが、見事にハズレてしまった。

 今回派遣された視察団の大半は「福島原発汚染水に対するタスクフォース」のメンバーとして文政権時代に任命された。韓国で最も高い水準の科学者として折り紙付きというが、それをもってしても、「日本への不信感」は払拭できなかった。

 韓国での「福島原発汚染水」騒動は、どうやらこの数年で収まるとは思えない。この騒動に信ぴょう性があるのかどうかを判断するには、海洋放出をやってみるしかない。何も起こらなければ騒動はそのうち落ち着くだろう。だがそうでなければ、日韓関係にまた大きな嵐が吹き荒れるはずである。
 

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