台湾有事が引き起こす第2次朝鮮戦争 米日の助けなしで韓国軍は国を守れるのか
https://www.dailyshincho.jp/article/2023/02011700/?all=1
鈴置高史 (스즈 오키 타카 부미,Takabu-mi Suzu-oki)  半島を読む   2023年02月01日

(鈴置高史さんのブログ記事)

 韓国人が「見捨てられ」を恐れ始めた。台湾有事となれば北朝鮮が韓国を挑発する可能性が一気に高まる。その時、米国と日本は台湾支援にかかりきりになっているのだ。「一人で戦え」と突き放される隣国は核武装に走ると韓国観察者の鈴置高史氏は読む。

鈴置:韓国で台湾有事がようやく話題になりました。

――やっと、台湾を助けるつもりになったのですか?

鈴置:いいえ。韓国人は台湾が中国の支配下に入ることは気にもとめません。半導体産業で競合関係にある台湾が攻撃されれば、韓国の得になる――と考える人さえいます。

 韓国人がハタ、と気付いたのは台湾有事の際、北朝鮮が韓国に挑発を仕掛ける可能性がぐんと増すことです。北朝鮮をそそのかして第2戦線を開かせれば、米国の台湾支援がおろそかになると中国が考えるからです。でも、その時は米国の韓国防衛が手薄になっている。韓国は単独で北朝鮮に対峙することになります。

 韓国の「新たな危機」を訴えたのが朝鮮日報の楊相勲(ヤン・サンフン)主筆の「[楊相勲コラム]我が国の戦闘機の50%が消滅した後に戦争が始まるだろう」(1月19日、韓国語版)です。

 米CSIS(戦略国際問題研究所)が1月9日に発表した中国による台湾侵攻ウォー・ゲーム「The First Battle of the Next War」を参考に「第2次朝鮮戦争」では、米韓側の優勢を担保してきた空軍力が封じ込められる、と警告を発しました。ポイントを訳します。

・[このウォー・ゲームでは]中国軍は侵攻時、最初にグアムと日本の米空軍基地にミサイルの洗礼を浴びせる。米空軍は平均200機内外の戦闘機を失うが、その90%が離陸もできず地上で破壊される。
・台湾空軍は初回のミサイル攻撃でほぼ半分の戦力を失う。台湾空軍の基地の防衛は韓国軍よりも堅いという。北朝鮮の奇襲・南侵も中国と同様に韓国の空軍基地に対する大量のミサイル攻撃で始まる。今のままなら、被害は台湾以上であろう。
・我が空軍は最大の対北抑止力だ。その半分が最初のミサイル攻撃で失われるとすれば衝撃的で恐ろしいことだ。北朝鮮はそんな攻撃が可能なミサイルを育て上げた。
米空母も対艦ミサイルで撃沈
人民解放軍

1955年、台湾の一江山島を占領する人民解放軍(中华人民共和国未知名摄相师, Public domain, via Wikimedia Commons)(他の写真を見る)

――米空母による航空優勢は期待できませんか?

鈴置:空母も頼れなくなった、と楊相勲主筆は訴えました。このウォー・ゲームでは、第7艦隊の空母2隻が中国のミサイル攻撃で撃沈されます。

 第2次朝鮮戦争の際も、中国が衛星情報を使って北朝鮮に米空母の位置を教え、北朝鮮は現在開発中の対艦ミサイルで攻撃する、と楊相勲主筆は予想しました。

 「第1次朝鮮戦争」では空母艦載機による国連軍地上部隊への近接支援が功を奏しました。これがなければ国連軍は共産軍によって朝鮮半島から追い落とされていた、というのが通説です。ところが、ミサイルの発達によって「第2次」ではその手が効かないのです。

 なお、楊相勲主筆は中国が台湾に侵攻した場合、韓国は中立を守る、との前提で記事を書いています。それはCSISのウォー・ゲームも同様です。

 ただ、台湾有事が朝鮮半島有事を引き起こす可能性が高いと見る軍事専門家が多い。在韓米軍が台湾支援に回れば、中国にそそのかされなくとも北朝鮮は対南挑発への動機をぐんと増すからです。

 楊相勲主筆も台湾有事の際に、在韓米軍が手薄になることを懸念しています。このウォー・ゲームの以下のくだり(61ページ)を「米軍は韓国内の戦闘機の半数を他の地域に動かして運用するのが最善としている」と要約して引用しました。

・The project assumed that because of the pressing nature of the conflict with China the United States would release two of its four squadrons in South Korea. However, because of the continuing threat from North Korea, the other two squadrons would remain in South Korea for deterrence.

 


朝鮮戦争で国連軍側の航空優勢を確保した米軍のF86戦闘機(USAF, Public domain, ウィキメディア・コモンズ経由で)(他の写真を見る)

 

日本に空軍機を退避させたい

――他の地域とは?

鈴置:日本でしょう。いかなる形であれ、半島に緊張が走った瞬間、在韓米空軍は戦闘機などほぼすべての航空機をいったん日本に移すと見られています。

 2017年に米朝間で戦争の危機が高まった際にも、在韓米軍に所属する多数の戦闘機が日本に飛来したことが確認されています。当時、米軍は韓国に住む米国籍の非戦闘員の日本への避難訓練を実施しましたが、退避が必要なのは市民だけではありません。

 北朝鮮は大型多連装ロケット砲――日米韓は短距離弾道ミサイルと分類しますが――の大量配備を進めています。一度に多数のロケットを発射するだけに、米軍も全てを撃ち落とすのは不可能です。

 在韓米空軍の主力基地である烏山(オサン)は北朝鮮が実戦配備済みの300ミリロケット砲の射程に入ります。それ以上の射程を持つロケット砲の開発も終えた模様で2022年12月31日、金正恩(キム・ジョンウン)総書記は同日に発射した超大型のロケット砲に関し「南朝鮮全域を射程に収め、戦術核まで搭載可能だ」と豪語しました。

――韓国も空軍機を日本に退避させたいでしょうね。

鈴置:もちろんです。ソウル五輪(1988年)ごろまで、韓国空軍は航空自衛隊に対し、緊急退避の受け入れを非公式に打診していました。当時、北のロケット砲の射程は短かったのですが、空軍機による航空基地への奇襲を韓国は恐れていたのです。

 もちろん、日本は戦争に巻き込まれたくないので拒否。そのうちに経済難による北朝鮮空軍の弱体化が明らかとなり、緊急退避案は立ち消えになっていました。が、北のロケット砲の開発進展で再び韓国にとって必須となったのです。
韓国ではなく台湾を選んだ日本

――日本は韓国空軍機の緊急退避を受け入れるのでしょうか。

鈴置:受け入れません。まず、それを可能にする法的な取り決めがありません。それに、台湾救援で手一杯な時に「第2次朝鮮戦争」への巻き込まれは迷惑至極です。

 そもそも国民感情が許さないでしょう。日本の足を引っ張り続けてきた韓国から、都合のいい時だけ助けてくれと言われるのです。普通の人なら怒りだすはずです。韓国空軍機を受け入れれば、日本が北朝鮮の攻撃の的になるのです。

 すでに、日本は中国に立ち向かうためのパートナーとして、韓国ではなく台湾を選びました。台湾の半導体メーカー、TSMCは熊本県に工場を建設中です。日本政府が積極的に誘致した結果で、この工場を中核に高性能のロジックの生態系を作るのが目的です。誘致のため、5000億円近い補助金も出します。

 韓国のサムスン電子のロジック部門も、TSMCに次ぐ世界2位の技術水準を誇ります。でも、サムスン電子を誘致しようとの声はまったく起きなかった。韓国という国が中国側に付く可能性が台湾と比べ、はるかに高いからです。

 実際、ここに至っても米国が画策する対中半導体封鎖網にも韓国は参加を渋っています(「半導体戦争で板挟みになる韓国 米国の圧迫と中国の嫌がらせ…頼みの綱は日本の輸出管理撤廃」参照)。

――韓国は日本との協力が必要不可欠なのに……。

鈴置:それを知らない日本人が多い。「半島有事の際、日本人退避に自衛隊機を送ろうにも今のままでは韓国が許可しない。だから『徴用工』問題などで韓国に譲歩して関係を改善すべきだ」と主張する日本の専門家がいます。

 これはまったくの事実誤認です。韓国にとってこそ、日本との協力が死活的に必要なのです。有事の際に自衛隊機の受け入れを拒否するなどという傲慢な選択肢は韓国にはありません。それどころか、その自衛隊機に韓国人も乗せてくれ、と言い出しかねない。