半導体戦争で板挟みになる韓国 米国の圧迫と中国の嫌がらせ

…頼みの綱は日本の輸出管理撤廃
https://www.dailyshincho.jp/article/2023/01201701/?all=1
鈴置高史 半島を読む 2023年01月20日

 

装置は西側、生産・市場は中国

――「半導体封鎖網に参加するしかない」との声はどこから上がっていたのですか?

鈴置:主に保守の側からですが最近、経済界からもそうした意見が出始めたので注目していました。例えば、韓国貿易協会が2022年12月23日に発行した調査レポート「グローバル半導体供給網再編による韓国の機会と脅威要因」です。

 貿易協会らしく世界の貿易統計を駆使して韓国、米国、日本、台湾、中国の半導体、同素材の国別対外依存度を分析。結論として、米国主導のグローバル半導体供給網の再編は「韓国にとり、安定的な供給網構築と新規市場進出の機会になる」と肯定的に評価しました。

 ただ、「そのためには再編に参加する過程で、韓国の最大輸出市場である中国との関係の設定が必要」と対中配慮も付言しました。

 要は、半導体の製造装置も素材も米国を中心とした西側に依存しているから西側から離れるわけにはいかない。世界最大の中国市場も重要だが、いざとなれば西側の市場を開拓することで補完できる、との判断です。

 この報告書には書いていませんが、中国半導体メーカーはメモリー分野で急速に追撃中。どの道、中国市場での韓国のメモリーの優位性は失われる、との計算もあると思われます。
小早川秀秋なら、米国から銃撃

――半導体での西側回帰。そんなにうまくいくのでしょうか?

鈴置:うまくいかないと思います。報告書には、回帰の過程で中国からビンタを食らう、との想定が抜けています。「短期的には中国との摩擦を最小化する水準で米国との協力を維持し、次第に中国への過度な依存を減らせばよい」と提言していますが、封鎖網に加わる前から早くもビザで脅されてしまった……。

──結局、韓国は半導体封鎖網への参加を先送りするのでしょうか?

鈴置:下手に先送りすれば、今度は米国からビンタを食らうでしょう。バイデン政権は米中半導体戦争に賭けています。血を流す戦争をせずに中国の台湾侵攻を食い止めるには、経済戦争で屈服させるしかない。

 そんな状況下で韓国が西側への復帰を逡巡すれば、米国が韓国に対しても制裁をちらつかせるのは確実です。関ヶ原の戦いで、寝返りを逡巡する小早川秀秋の陣に徳川家康が鉄砲を撃ちかけさせ、それを催促したのと同じです。

 日本と米国から、韓国への半導体製造用の素材供給がなぜか細ってしまう。調べてみたら米国が後ろで糸を引いていた――なんてことが十分にありうるのです。

 

【図で見る】韓国の半導体 国別“依存度”

 

 

ホワイトリストに戻すと日本が約束

――米国がそんなことをするでしょうか?

鈴置:米国は安全保障にかかわることなら何でもやります。韓国もそれを知っているからこそ、日本の対韓輸出管理の強化を執拗に撤廃させようとしてきた。

 安倍晋三政権によって自分の喉元に突き付けられた刀を、一刻でも早く降ろさせたいのです。日本が持っている刀だけど、米国が使う可能性も大いにあるのです。

 文在寅政権だけではありません。尹錫悦政権も同じです。最近、自称・徴用工問題が解決する際には、半導体用素材3品目の対韓輸出の管理緩和と、韓国をいわゆるホワイトリストに戻して兵器拡散の監視対象から外すことを日本が約束した、と韓国紙が一斉に書きました。

 朝鮮日報の「徴用解決案が出れば…日本の輸出規制は解かれる」(1月16日、韓国語版)、中央日報の「韓国発徴用対応策に合わせて日本では輸出規制解除…『シャトル外交も復元』」(1月16日、日本語版)などです。

 いずれも東京特派員の記事ですから、訪日した外交部高官が記者を集めて「希望的展望」を語ったのでしょう。それほどに、韓国は半導体素材の締め上げによる制裁を恐れている。

 半導体分野で完全に米国側に戻れば、素材供給を絞られる心配もなくなるわけですから、韓国が当分、米中二股を続けるとの傍証でもあります。
自分の武器を知らぬ日本人

――日本政府は輸出管理の緩和を約束したのでしょうか。

鈴置:その可能性が高い。対韓強硬派の議員の中にも「韓国と関係改善の折には緩和することになる」と言う人が多い。輸出管理の強化を二国間問題として、まだ捉えているのです。

 米中半導体戦争が勃発して以降、素材や製造装置が日米の強力な武器になったことに気づかない人が多い。そして、尹錫悦の韓国が未だに洞ヶ峠を決め込んでいることへの認識も薄い。

 韓国政府や日本の外務省が展開した「韓国は我々の側に戻った」キャンペーンに騙されているのです。それは議員に限らず、学者や記者も同様ですけれど。