原発、自動車、米国で多額の賠償金背負う日本

https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/57966

2019.10.21(月)森清勇

 

原発、自動車、米国で多額の賠償金背負う日本1

原発、自動車、米国で多額の賠償金背負う日本2

 

訴訟は大きなタバコを粉砕しました。

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逆に福島第一原発の事故では訴訟チャンスを失い・・・

 

 東京電力福島第一原子力発電所事故をめぐり、

業務上過失致死傷罪で強制起訴された旧経営陣3人に無罪判決が出た。

 ここに『原子力文化』という月刊誌がある。

その20174月号で、

21世紀を生きる日本人に考えてほしいこと」の掲題で、

内閣府参与・原丈人(はらじょうじ)氏のインタビュー記事がある。

 

 いくつもの事故調査委員会が作られたが、

「本当の原因を示したものは、見受けられませんでした。

当時の駐日アメリカ大使や、アメリカ法律事務所が可能性として考えていたことは、

どの事故調査委員会でも議論すらされていませんでした」

と、まさかと思わせるショッキングなことが書かれている。

 

 確かに原発を運転していたのは東電であるが、

原発を製造したのは米国のGE(ゼネラル・エレクトリック)である。

PL(製造物責任)法があり、製造者責任の追及ができるというのに、

それについての訴訟は聞かれなかったことを指している。

 

 明治維新の成功をみた福沢諭吉は、

東漸する西欧文明の脅威には西欧文明で対処するほかないと『脱亜論』で喝破した。

 この顰(ひそみ)に倣うなら、

福島原発事故では米国の弁護士社会に通じた人物をもって

GEに対処すべきであったのだ。

 

 然るに、GEに触れることなく東電の責任追及だけに終始する、

言うなれば「蝸牛角上の争い」を演じてしまったようだ。

 本論はただ一つ、東日本大震災時に起きた津波による

福島第1原発事故で被害を蒙った多くの市民、

そして東電と電気料金の値上げを強いられた

管内住民が被った損害を補填する「他策はなかったか」についてである。

 ただ、訴訟社会の米国事情を知らなさすぎたために、

残念ながら蝸牛角上の争いに終わり元凶に迫れなかったことは大きな教訓である。

 

あるいは今からでも遅くないのかもしれない。

 そのために、高山正之・立川珠里亜共著

『弁護士が怖い! 日本企業がはまった「米国式かつあげ」』

1999年刊、以下「高山本」)を参照しながら、

米国の訴訟社会の実情を管見する。

象徴的なコーヒー火傷の裁判

 79歳の老人がニュー・メキシコ州アルバカーキの

マクドナルド店ドライブ・スルーでコーヒーを買い、

孫の運転する車で終の棲家を探していた。

 コーヒーカップを太ももに挟んで蓋を開けようとしたとき

カップが倒れ、熱いコーヒーが太ももからお尻にかけて流れた。

結局、お尻に3度の熱傷を負い、治療費に1万ドルかかった。

 

 老人はマクドナルドが熱すぎるコーヒーを出したのが原因で、

顧客を無視した無神経な対応に責められるべき悪意があると地裁に訴えを起こす。

 約2年半後に、12人の陪審員団全員がマクドナルドの責任を認め、

火傷に伴う苦痛や不便などへの実質的な賠償を20万ドルと認定し、

州法の規則で原告側の過失分20%を相殺して、16万ドルとする。

 

 陪審員の中にマクドナルドのコーヒーでやけどをした経験者がいたと言われ、

さらに懲罰的賠償として270万ドルを算定、

合計286万ドルの支払いを命ずる評決となる。

 

 しかし地裁判事は評決の金額に行き過ぎがあるとして、

実質的損害賠償16万ドル、懲罰的損害賠償48万ドルとする減額判決を下す。

「自分の過失でこぼしたコーヒー1杯が64万ドルに化けたことは間違いない」

と述べる。

 

 高山本にはこの手の判例、

例えば、いびきで訴えられ市騒音条例で

罰金50ドルを命じられた女性が逆に辱めにショックを受けたとして

25000ドルの賠償を要求し、

敗訴を覚悟した市は13500ドルで和解に応じたことや、

 隣の家から借りた芝刈り機に足を挟まれ大けがをした男が、

芝刈り機を貸した隣人を危険なものを貸した不法行為で訴えたケース、

 かわいがっていたネコを洗ってオーブンに入れて乾かそうとして

死なせてしまった婦人が

電子オーブンに「猫を乾かしてはいけない」と表示していなかったと

訴えたケースなど、PL法違反絡みを多数含む訴訟が取り上げられている。
 

日本関連でも、三菱自動車の工場(イリノイ州)で、

米国人従業員が同僚女性従業員にセクハラを行う。

「それは(女は男のおもちゃという観念をもつ日本人)管理者が

従業員にセクハラを奨励したためだ」

と米国政府機関の雇用機会均等委員会(EEOC)が裁判所に訴えた事件があった。

「ほとんどヤクザの因縁に近い言い分」

というやり方で、米国メディア、議会までが味方して

法外な落とし前を三菱から採ることに成功する。

1999年時点での話であるが、

同様な訴訟がトヨタ自動車やホンダにも何十件と降りかかっていたのである。

エアバッグのタカタはどう叩かれたか

 タカタ製のエアバッグが作動時に破裂して

金属片をまき散らす恐れがあるとして問題になったのは2014年である。

 搭載車のホンダは原因が特定できない段階の予防的措置としての

調査リコールを米南部の高温多湿地域に限定する考え

(対象車約280万台)を示していた。

 

 しかし、クルマ社会の米国では

問答無用のように「言い訳がましい。見苦しい」の一言で聞く耳をもたない状況で、

「目の前の散弾銃で顔面を狙われているように感じた」

と非難されたホンダは全米(その他約540万台)に広げるだけでなく

日本も含め、中・豪などアジア・オセアニア地域まで

広げざるを得なくなる(対象車約1200万台)。

 

 科学的に原因を特定できないままに

数件の死亡事故を理由に800万台近い車両のリコールを当局が強制した場合、

「法廷に持ち込まれれば当局がタカタの過誤を十分に立証できず、

敗訴する可能性もある」

と自動車業界関係者はみていたという。

 

 米国が日本の一部品メーカーに対し

これでもかこれでもかと非難し怒りをむき出しにした裏には、

タカタが米国市場を席巻したというほかに、

監督官庁である米運輸省・高速道路交通安全局(NHTSA)が

「仕事をしていない」と同局の設立に動いた

市民運動家からこき下ろされていたための起死回生でもあったようだ。

 

 NHTSAで事故調査を担当する欠陥調査室は50人の陣容であったが、

ほとんどが弁護士で技術者は数えるほどでしかなかったために、

ハイテク化する自動車の機能を研究・実験する権限を生かし切れていなかったが、

自身の調査能力のなさを取り繕いたかったために

タカタに対して無理筋ともいえる全面リコール命令を発動したとされる。

米国の小型機会社も訴訟で潰れた

 小型飛行機といえばセスナ機やハイパー機が有名であった。

しかし、その名前もいつの間にかほとんど聞かれなくなった。

1980年代に訴訟の嵐に襲われた結果、体力を失くしてしまったようだ。

 

 例えば1983年、テネシー州からルイジアナ州に向け飛び立った

セスナ機が燃料切れで墜落した。

事故調査で世界的権威をもつ国家輸送安全委員会(NTSB)は、

操縦していたハーパー氏が

泥酔して燃料バルブを閉めたためガス欠を起したと認定した。

 

 負傷した氏の血中アルコール濃度は許容量の5倍であったが、

氏はバルブに欠陥があったとして逆に455万ドルの賠償請求を起こし、

4年間の法廷争いの末、

20万ドルの訴訟費用と5万ドルの賠償支払いを課せられたのはセスナ社であった。

 

 ハイパー社の複座機の前席に撮影機材を載せ、

後席で操縦桿を握ったパイロットが滑走路上に置かれた

トラックにぶつかり大怪我をした。

 トラックはパイロットが使用料を払わないために

飛行を阻止する目的で飛行場管理者が置いたもので、

事故はパイロットが管理者の警告を無視して起こした自業自得であった。

 

 しかし、パイロットは「滑走路に停めたトラックが見えなかった」

前方視界阻害は構造の欠陥であり、さらに肩掛け式でない

旧式のシートベルトが怪我の原因だと主張。

判決の結果はハイパー社が「250万ドルの賠償を支払え」であったという。

 訴訟のピークとなった1985年、

小型機業界の製造販売額は143100万ドルであったが、

訴訟費用に21000万ドルを支出、

実に総売り上げの7分の1が賠償金を含む訴訟費用に消えたという。

 

 こうした結果、1980年代初めまで年間18000機を生産し、

世界市場の95%を独占していた米国の小型機メーカーは

93年には30分の1555機にまで生産を落し、

セスナ、ハイパー、ビーチエアクラフト、ガルフストリーム

など29社あった企業は20社が倒産する。

 

 高山本によると、

ウィンドウズのビル・ゲイツ王国は類似したアイデアを訴訟によって抑え込み、

事実上の独占市場で築き上げたものであり、

また発明王で知られるエジソンの言葉に

1つのひらめきと99の努力」があるが、

実際は発明した件数の数百倍の訴訟を勝つことで

確固とした地位を築き上げたものだとされる。
 

ブッシュ(父)大統領は再選を懸けた選挙戦に

訴訟公害を攻撃するキャンペーンを持ち込んだが、

訴訟ブームの仕掛け役「弁護士」の一人であったビル・クリントン氏に敗れた。

 しかしホワイトハウス入りしたクリントン大統領が

セクハラ訴訟やモニカ・ルインスキーさんへの偽証強要

などの訴訟まみれになったのは皮肉という以外にない。