勢ひ和朝に名も高き、曽我の五郎時致、逆沢潟の鎧蝶、裳裾にすがる鶴の丸、
素袍の袖をかき撫でて、留めるは鬼か小林の朝比奈ならぬ優姿。
女のよれる黒髪に、引かれて止まる心なら、やらじと引けば時致は、日頃の本望父の仇、
妨げなすなと突き飛ばし、廓のじゃれとは遊ふぞよ、離せ留めた。
留めてよいのは、朝の雪、雨の降るのに去なうとは、そりゃ野暮ぢやぞへ待たしゃんせ。
起請誓紙は嘘かいな、嘘にもじゃれにも誠にも、余所に色増す花眺め、
そして騙して、それそれ其顔で、怖いこと云うて腹立しゃんす。
そちら向いてゐさんしても、顔見にゃならぬ、末を頼みの通う神
かよわき少将朝比奈が合力は素袍の袖添へて、互に劣らぬ有様は、
貴賤上下おしなべて、感ぜぬものこそなかりけれ。