キャンディの森 320話 テリィ物語 ニューヨークへ帰ったテリィ | キャンディの森

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キャンディキャンディの私的二次小説


 テリィはニューヨークへ帰った。スザナの屋敷に同居していたのでそこに帰ると、スザナが喜んで出迎えた。
「テリィ!テリィ!帰って来てくれたのね!私のテリィ!信じて待っていたのよ。。!  テリィ  嬉しい。。」

スザナに愛していないとは言えない。。結婚する気もないとは言えなかった。だがテリィは自分の中でけじめはつけていたのだった。スザナを立ち直らせる事、それが自分の役目。。その暁には俺はこの家を出ようと。。そう考えると気持ちが楽になった。

「スザナ、悪かった。。俺は、もう一度ストラスフォード劇団に戻ってやり直したい。。もう一度俳優を目指したいんだ。」

「テリィ!よくそこまで!素晴らしいわ。。あなたなら必ず復活するわ。。だって私が愛しているあなたは光り輝いていたんですもの。。それを私が、私があなたから光を奪ってしまった。。」

「スザナ、そんな事はないよ。俺が駄目だったからなんだ。でもね、もう大丈夫。。すっかり元気になった。」

その時スザナはテリィがキャンディに会ったのではないかと直感的に思った。

「あのひとに会ったのね。。」
「あのひとって。。」
「キャンディよ。」
「会ったと言えば君はどうする?会わなかったと言えばどうする?」
「会ったと言えば泣くわ。。悔しくて。。会わなかったと言えば嘘って追求するわ。」

スザナのテリィを独占したい気持ちは日に日に強まっていった。テリィは初めにあった頃よりも背が伸びて貫禄も出てきて、何と言ってもセクシーだった。そこがテリィの一番人気のあるところだった。あんな人に抱かれたい、女性なら誰しもがそう思うほどテリィはセクシーで美形だった。スザナは家に帰ってくるテリィをずっと追いかけて寝るまでとにかくつきまとっていた。

「そう。。どっちにしろ、俺を責めるという事だ。じゃ言わない。」
「ん、もう意地悪!いいわ!聞かない!」
「スザナでも怒るんだね。」
「そうよ!だって心配なんですもの。あなたが他の人のものになったら、私悔しくて生きていられないわ。」
「スザナ。。」
「それほどあなたって素敵よ。。テリィ。。愛しているわ。。あなたがそばにいてくれるなら、何にもいらない!テリィがいてくれるだけでいいの。。嬉しいの!幸せでたまらないわ。。」
「困ったね。僕はそんないい男ではないよ。今では無一文さ。。」
「いいえ、あなたは必ず返り咲くわ!あなたみたいな人を世間が放っておく事はないわ。。わかるわ私。」
「そう、じゃ明日にでも劇団に行ってこよう。ロバートに怒られるだろうけど。。」
「先生はそんな人ではないわ。。きっとわかってくださるわ。テリィ。」
「じゃ、僕は休みたいからこれで失礼する。」
「ええ。。お部屋に戻るの?」
「ああ、何かあったら呼んでくれ。僕は台本を読まずにはいられない性格でね。」
そう言ってパタンと自室の部屋のドアを閉めた。
スザナには物足りなかった。旅の話をもっと聞きたかったのに何一つ教えてもくれなかった。

「テリィ。。どんなに愛しても心が通じ合わない。。」
スサナは寂しさを感じてはそばにいてもどうしても心の奥に入っていけないものを感じた。

「まさか、キャンディと?キャンディとよりを戻したのかしら?」

スザナは生気に満ちて元のテリィに戻った事が嬉しかったが、それはキャンディに会ったせいなのではないかと思った。

キャンディとよりを戻したら、自分のところから去って行くのではないかという不安が急になだれのように押し寄せてきた。

「いやよ。。!  テリィは渡さない。。テリィは私のものよ。。!  誰にも渡さないわ。。!」

キャンディの面影を感じながら、これからも生きていかねばならない。。元々はテリィの恋人だったキャンディを自分が横取りした。。横取り?いいえ、テリィは私を選んでくれたのよ。。キャンディより私を。。私を愛してくれているから同居して婚約しているんだもの。。彼を信じたい。。でも。。本当に愛されているのだろうか。。

そんな事がずっとスザナの心の中には渦巻いていた。


テリィはストラスフォード劇団に行き、団長のロバートに会いに行った。

「テリィ!帰ってきたのか!」
「はい!団長。。もう一度一から出直しします。。ご迷惑をおかけしてしまって。。どんな役でもいいです。よろしくお願いします。」

そう言って深々と頭を下げた。テリィが頭を下げる事など滅多にない事だったが、ロバートはテリィが何かとても吹っ切れて清々しくなったように思えた。

「テリィ。。随分元気になったじゃないか。目の輝きが違う。」
「ええ。。僕は愚かでした。ロックスタウンという田舎町で俳優をやめたというのに、未練がましくも金欲しさにドサ回りの劇団で芝居まがいのものをやっていたんです。その時に俺は目覚めさせられたんです。。」

「なんだ、亡霊でも現れたか。」
「まあ、そのようなものです。。夢を諦めるなという声が聞こえて。。」
「それで立ち直ったか。まぁ、いい。。一日も早く復帰してもらいたい。君が辞めてからというもの、観客が大幅に減ってね。。困ってたんだ。テリィ、観客が君の復帰を待っているんだ。しっかりやってくれよ。期待を裏切るな。いいな。もう後はないぞ。」
「はい、分かってます、団長。俺は必ずやってみせます。もう、ご心配おかけしません。」

テリィはやる気がみなぎっていた。復帰作はハムレットだった。ストラスフォードはオーディションで役柄を決めるのでテリィにとっても正念場だった。

「よう、テリィ! また会えたな!」
「ディック!久しぶりだ。」
ディック・ハミルトン。。テリィと同期に入ったロンドン出身の俳優だった。性格は温厚で優しく、テリィとも仲が良かった。

テリィがカフェでコーヒーを飲んでいた時に彼は近づいてきた。

「テリィ、スザナのところへ戻ったのかい?」
「ああ。。そうだよ。」
「ああそうだよって、お前、大丈夫なのか?」
「ああ。もう大丈夫だ。」
「俺、お前の気持ちはわかるつもりだよ。あの事故でお前は何も悪くないのに全ての責任がお前のようにされて、俺ならスザナなんかの面倒なんて見ないけどな。好きでもない女と同居するなんて。。」
「分かってやってる事さ。。俺は間違ってるのかもしれないけど、スザナを選ばざるを得なかった。。」
「惚れられすぎるのも不幸だな。まぁ、スザナがお前を愛していなければお前が足を失っていたかと思うとやりきれないが。。」
「もういいんだ。。その事については何度も何度も悩んで苦しんでもがき続けたんだから。。」
「あの照明事故ってスザナが企らんだんじゃないのかって怪情報が出てるぜ。。照明係のやつが頼まれたとか。。」
「馬鹿馬鹿しい、何のためにだよ。」
「お前を獲得するためにさ。」
「自分の足を失うことを計画する人間なんているか?」
「それは計画ミスだったとか。。想定外だったらしいさ。何と言ってもお前の人気はすごい。そのうち世界中の女性から狙われるんじゃないかな。」
「冗談言うなよ、そんな事があるわけ無いだろ。バカな事言ってる暇があれば台本読めよ。」
「そりゃそうだな。でもえらく元気になったな。酒は飲んでるのか?」
「やめたよ。酒もタバコもやめた。」
「へぇ。。よほどいい事があったのか、新しい女ができたか。。」
「新しい女ね。。確かにな!そうとも言えるかな。」
「えっ?!図星かよ!」
「まぁ、そう思ってればいいさ。俺の心の中にはひとりの女がいる。」
「お前の中?」
「ああ、俺の心の中にしっかりと居座って動かない。」
「何だかよくわからないよ。」
「わからなくていい!とにかく俺はカムバックしなければこの先が無いんだ。。」
「ハムレットのオーディションだろ?俺も受ける。まぁ俺はホレイショー役だが。お前と共演できたらいいな。楽しくなるぜ。今晩、飲みに行かないか?」
「俺、酒はやめたって言ったろう?」
「本気か!」
「本気だよ。。早く帰ってスザナの面倒を見なきゃならない。」
「よくやるなぁ。そのうち俺も見舞いに行くよ。じゃな。」
「ああ。」

照明事故はスザナが仕組んだって知ってるか?
その話がテリィには引っかかったが、そんなバカな話あるはずないと思いカフェを出た。

テリィはストラスフォード劇団に戻って自分の居場所を見つけたようでとても気持ちが明るくなった。
そして心の中にはキャンディがいる。ふたりだけの約束がある。。その支えだけで生きていけると思った。

「あいつ、裏切らないだろうな。。」

あのじゃじゃ馬を操れるのは俺しかいない。。そう思うとテリィは口から自然に笑みがこぼれた。

見ててくれ!キャンディ!俺の復活を!必ずハムレット、勝ち取るぜ!

テリィはそう燃えていた。
そして急いでマーロウ邸に戻り、スザナの世話をした。

まずお茶を一緒に飲む事、その日にあった事を報告する事、スザナのリハビリに付き添う事、近くの公園に散歩に出る事、台本を一緒に読んで勉強する事、夕食を一緒に食べる事。夜のお茶に付き合う事、寝る前の軽いリハビリに付きあうこと、ベッドへ連れて行く事、それだけの仕事が毎日テリィを待っていた。

それはマーロウ夫人から頼まれたメニューであり、出来るだけスザナがテリィと長い時間を過ごせるように仕組んでいた。マーロウ夫人はテリィがスザナを愛していないのを分かっていたので、なるべく一緒にいると愛が育つ事を信じていた。

テリィは言われる通りにこなした。我慢したと言っても良かった。苦行とも言えたかもしれなかった。スザナのつまらない話に相槌をうち、飲みたくないお茶を飲んで一緒に過ごした。

ある夜、
「テリィ。。おやすみのキスだけじゃいや。。」
「えっ?」
「だってあなたのキスって素っ気ないんですもの。」
「スザナ。。」
「もっと深いキスがしたい。。私もう子供じゃなくてよ。。」
「。。。」
「恋人同士のキスってどんなのかわかるでしょ。。こんな事私に言わせるのって失礼だと思わない?」
「ああ。。」
「あなたは私の婚約者じゃなくて?」
「スザナ。。」
「愛しているの。。身も心もあなたと一つになりたいの。。当たり前の事じゃなくて?」
スザナはポロポロと泣き出した。
「スザナ、僕は。。そういう付き合いは。。」
「できないって言わせないわ!婚約したのは詐欺になるわよ!テリィ!」
「スザナ!そんな詐欺だなんて。。」
「当たり前よ。あなたは私と一生涯暮らして夫として生きていく事を選んだのよ!自ら選んだのよ!私は言ったはずだわ!キャンディが立ち去った時、追いかけてもいいのよって!でもあなたは、私を選んだって言ったのよ!嘘だっていうの?!」
「嘘じゃないよ!それは俺の気持ちだ。。」
「なら、どうしてそんなに冷たいの?!どうして愛してくれないの!どうしてキスの一つもしてくれないのよ!ひどいわ!」
「すまない。。」
「ひょっとして女がいるの?新しい女がいるんじゃないの?劇団の若い子とか。。」
「そんな事ありえないよ。。スザナ!落ち着いてくれ!」
「そうでなければ私の知らないところでキャンディとよりを戻しているんじゃないの?!」

それを言われてテリィは心臓の音がドキドキしていくら役者と言えども、顔に出そうになってしまった。

「そんな事があるはずないだろう。。キャンディなんてどこにいるのかも知らない。。」

「じゃ、私を抱いて。」

「えっ?」

スザナは脱ぎ始めた。そして白い身体が露わになり、テリィに迫った。
「愛して欲しいの。。あなただけが生きがいだって言ってるじゃないの。。それとも私の何が嫌なの?嫌なところがあれば直すから。。お願い、テリィ。。私を愛して。。あなたの子が欲しいの。。」

テリィは優しくスザナにガウンをかけてやり、無言で部屋から出ていった。

スザナはプライドが傷ついて、クマのぬいぐるみをドアに向かって投げつけた。

「ひどい!ひどいわ!テリィ!私をこんな目に合わせて。。あなたの心の中には誰がいるというの?!キャンディ。。キャンディなのね?!」

大声で泣き叫んでいるのが聞こえた。テリィは部屋に入って耳を塞いでいた。

「いやだ!やめてくれ!俺は君を愛してはいないんだ。。だが言えない、言えば何をするかわからない。。」