キャンディの森261話 テリィ物語 孤独なテリィ | キャンディの森

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キャンディキャンディの私的二次小説

「おい、待てよ!キャンディ!」
だがキャンディは振り返らないで走り去っていった。
「どうしてこうなるんだ!」
テリィは握りこぶしを突き上げて叫んだ。
「グランチェスターなんかクソ喰らえだ!何が貴族だ。。人間以下のクズの集まりだ!」

キャンディは屋敷の門まで行った時に執事のセバスチャンが御者と喋っているのが見えた。
「あっ!キャンディス様!どちらへ行かれるのです?!」
「帰ろうと思って。。学院に。。」
「テリュース様は。。?」
「いいえ。。」
「おやおや、さてはケンカでもされたのですかな?」
「。。。」
「わかりました。このセバスチャンと馬車でちょいと気晴らしに行きませんか?」
「セバスチャンさんと?!」
「セバスチャンでいいですよ。テリュース様でなくて申し訳ないですが。。」
「そんな、テリィなんて。。」
「それじゃ行きましょう。さぁ、馬車に乗って。ちょっとテリュース様を心配させてやりましょう!」
「それもいいわね!」

御者はセバスチャンに言われた通り、城壁に沿ってどんどん下ると行くと、川が流れている風景に出会った。
「まぁ、川が流れているわ!」
「ええ、この川でテリュース様は夏には良く泳いでおいででした。」
「へぇ、そうなの。。泳ぎも得意なのね、テリィは。」
「ええ、テリュース様は文武両道、何でもできてしまうお方です。まるで英雄のようです。私はテリュース様がグランチェスター家の跡取りになると信じているのですが、中々奥様がうんと仰らない。。」
「テリィはミセス・グランチェスターの子ではないから。。」
「テリュース様のお母様は。。いや言わない方がよろしいですな。。」
「いいえ、知っています。。知ってしまったと言うか。。」
「左様ですか。。エレノア様は本当に美しいお方でした。リチャード様が愛しておられるのは今もエレノア様だけです。。夫人とは貴族同士のいわば政略結婚なのでお見合いで形だけの結婚をさせられているだけに過ぎないのです。。リチャード様は何も仰りませんが、ご自分の気持ちは隠しておられる。でもご夫人にはそれがわかるのでしょうな。何かと癇癪を起こしてリチャード様やテリュース様に冷たく当たられるわけです。ましてや愛人の子がグランチェスター家を継ぐとなればご夫人はあの激しい気性ですから断固として許さないはずです。何としてでも自分の子を後継ぎにと考えてらっしゃるので三人も子供さんがいるのです。エレノア様は一度だけ来られたのです。坊ちゃんに会いに。。だけれどリチャード様がお許しになられなかった。」
「ここへ来られたの?グランチェスター夫人はどうしたのかしら?!」
「ここではありません、スコットランドのお屋敷です。。」
「ああ、それでスコットランドの民謡をテリィは知っていたのね。」
「民謡?」
「ええ、テリィにハーモニカを渡すと古いスコットランドの民謡を吹いてくれたんです。」
「坊ちゃんはスコットランドの別荘がお好きで良く出かけられます。坊ちゃんは寂しいんですよ。。一度も母の愛情を受けた事が無いのですから。もちろん生まれた頃は可愛がられたでしょうがね。。」
「ええ、わかります。。」
「僕は私生児だからって、いつも何かと夫人の前では遠慮されるんです。小さい時からいつも一人で遊んでおられました。他のお子様は夫人が可愛がりますが、テリュース様のことは憎まれていますので放ったらかしにされるのです。なんでも一番はクリス様です。おやつも余ったらテリュース様は頂ける。おもちゃもクリス様が飽きたらもらえる。遊びに出かける時はテリュース様はお留守番を言いつけられました。クリス様はいたずらが多く、それも全てテリュース様のせいにされました。庭の池の鯉が死んだのもテリュースが毒を盛ったからだと!あれはひどかった!クリス様が毒入りの餌を作っているのを私は見ていたのですが、奥様はテリュースのせいにしました。それが成功して面白かったのか、クリス様によるテリュース様への悪態はエスカレートしていくばかりでした。それでもテリュース様は何も言われず、ジッと耐えておられました。私は見かねましてね。。良く一緒に遊びに連れて行かせてもらいました。馬がお好きで、良く可愛がっておられました。小さい時から乗馬が本当にお上手だった。。」
「ひどいわ。。ひどすぎる。。テリィには何の罪も無いのに。。」
「スコットランドの別荘でリチャード様とエレノア様が言い合いになってるのをお見かけしました。エレノア様はテリュース様を連れて帰ると言い張り、リチャード様は絶対にお許しになられず、会わせる事さえさせませんでした。テリュース様は泣いて泣いて、ママ!ママ!とずっと叫んでおられた。。」

「テリィが荒れるのも無理ないわ。。ずっとお母さんがいない状態なんですものね。。」
「ええ、セントポール学院に入られたのもご家族とうまくいかないからだったんです。あまりにも夫人のいじめが壮絶すぎましたから。」
「学院でもいつも一人でポツンとしていました。初めは海の上で会ったんです、私たち。。」
「ええ存じていますとも。あの時私も一緒に船に乗っておりまして、アードレー家のウィリアム様の執事の何と言いましたかなあの男。。」
「ジョルジュだわ!」
「ええ!ジョルジュです。彼とは長い間共に働いていましたのであの船の中では食事もしたりしていました。それでテリュース様と一緒だと言うと、アードレー家のお嬢様とお話なさっておられる事を聞き、微笑ましく思ったものでした。」
「それが、最悪の出会いだったのよ!レディそばかすって言うんですもの!」
「坊ちゃんはあだ名をつけるのが得意なんですよ!私もつけられました。」
「なんて?」
「ミスターテンペルって。」
「テンペル?なんで。。」
「テンペルとはお寺の事です。お寺にいるお坊さんのような事を言うからですって。。」
「あら、なんだか分かるような気がするわ!」
「そうですかね。キャンディさん、テリュース様はキャンディさんとお友達になられてとても穏やかになられました。以前はナイフで尖ったようなところもありましたが、随分変わられたのでなぜか?とお聞きしました。」
「そしたら?」
「好きな人ができたと。。驚いておりましたら、自分でも驚いたと言われてました。面白い奴だから今度屋敷へ連れてくるって仰られて。。リチャード様にご紹介したかったのでしょうね。」
「そうなの。。それなのに、私って。。」
「いえいえ、どんな事があったのかは想像つきます。あのご夫人の事だ。。相当な事を言われたのでしょう。。」
「私はアードレー家の養女なので貴族でもないし、お嬢様でもないんです。孤児院出身の親に捨てられた子供なんです。」
「キャンディさま!」
「ええ、それでも私は誇りを持って生きています。その気持ちを強く持てばいいのですけど。。」
「そうでしたか。。おかわいそうに。セバスチャンが代わりに謝ります。。」
「セバスチャンには何の責任もないのに!とんでもないわ!私が勝手に泣いて怒っただけですから。。」
「それでテリュース様は。。」


その時遠くから馬のいななきが聞こえた。
白馬に乗ってテリィが目の前に現れた。マントを翻し、その馬を駆ける様子は王子の姿そのものだった。
「テリィ!」
「こんな所にいたのか!何だ、セバスチャンも一緒なのか!」
「ええ、キャンディス様がお一人で屋敷を出て行こうとされましたので、思わずお声をかけさせて頂きました。。」
馬からテリィは降りた。
「悪いが帰ってくれないか?」
「承知いたしました。。ではキャンディス様失礼致します。。」
「セバスチャン!」
「キャンディ!乗れよ。」
「ええ。。私、あの。。」
「いいから乗れよ!」
「どこへ行くの?」
「帰るんだよ、寮に。」
「わかったわ。」
「あんな城から走って出て行く奴なんていないぜ。歩いて帰るつもりかと思って心配したんだからな!」
「ごめんなさい。。」
「別に君は悪くないさ。。俺があんな奴らに会わせたから嫌な目に合わせて悪かった。」
「ううん、いいの!」
「じゃ行くぞ!」
テリィは馬を走らせた。テリィの汗。。清々しい若葉のようなテリィの香り。。大好きなテリィ。
「もう、あんな家には俺は帰らない。」
「えっ?!」
「俺は家を出ようと思う。」
「そんな!」
「見ただろう、あの家族を。どうしようもないんだ。あんな所にいるとこっちの気がおかしくなるぜ。」
「でもお父様は、きっといい人よ。。」
「親父?さぁな。。」
「テリィは確かにあの人たちとは合わない気がするわね。。」
「夏休みはどうするんだ?アメリカへ帰るのか?」
「ううん、まだ決めてないけど。」
「じゃ、スコットランドに来いよ。」
「スコットランド。。」
「俺の別荘がある。」
「別荘。。!」
「そこは俺だけが今は使っているんだ。いい所だぜ。サマースクールに行けばいいさ。」
「サマースクール。。学院の?」
「ああ。」
「夏休みまで勉強するのかぁ、あ〜あ、なんだか嫌になるわ〜。」
「普段からしてないだろう?」
そう言ってテリィはケラケラ笑う。
良かった。。テリィも元気になったわ。。