Kはそれまでのさえこの萎縮した姿勢から、ソファの背もたれにゆったり寄りかかり、脚と腕を堂々と組んだ、自信に満ちた態度になった。
周りにいる警官達に、なんだ、というような睨みを利かせて、驚く彼らに
「何を話せば良いのか」
と問いかけた。
一変した様子を見て、警官達の1人がまず名前を聞き、当然彼女は「Kだ」と名乗った。
住所は、苗字は、と同じような質問をされ、必要ないから覚えていないと答えた。
一緒に暮らしている人はいるか、と聞かれ、いると答え、解っている下の名前だけを添えた。
携帯電話を持っているか、と別の警官が尋ねたので、普段使う携帯はあるが、自分のものではないと言った。
Kからしてみれば、「むつ」の携帯だからだ。
その警官は「番号を教えてくれ」と言った。
Kは「自分のものじゃない番号を覚えているはずがないのに、バカだなコイツは」
と思いつつ、判らないと答えた。
警官たちはますます困る。
Kは1つだけ情報を持っていた。
お母さんのフルネームだ。
サブキャラクターの中で、日ごろからお母さんと気が合い、よく話していたKだけが知っていた。
Kはお母さんの名前を告げ、警官はそこから旦那の実家の電話番号を突き止めた。
間もなくお母さんが迎えに来て、Kは無事に家に帰った。
お母さんは迎えに行った時のことを、今でも可笑しそうに語る。
大勢の男女の警察官達の真ん中で、パジャマ姿でどっかりソファに腰掛けて堂々と警官と話すKは、いかにも自信家のKらしかった、と。
その日、目が覚めてから家に帰るまでの記憶を、現在の私は持っている。
解離している間の記憶は、それまで全くなかった。
それらの記憶を取り戻したのは、もっとずっと時間が経ってからのことだ。