新しいキャラクターが、1ヶ月と空けずに次々と出現していた時期のことだ。
とある出来事があった。
平日の早朝、さえこの状態で目覚めたようだ。
その日は雨が降る、寒い冬の日だった。
寝ている旦那をそのままに、暫く現れていなかったさえこは、隠し忘れたキッチンの包丁で手首を傷つけた。
パジャマのまま、滴る血をそのままに、フラフラと家を出た。
死のうとして、場所を探した。
近所の国道沿いをずっと歩き、車通りの多いその道の上の歩道橋に登った。
しばらく下を見つめ、歩道橋の柵を乗り越え、眼下の道路に向かって飛び降りようとする気持ちと、怖いという気持ちを戦わせていたようだ。
通勤時間帯にさしかかろうという時だった。
通りすがりの中年の女性が、柵の向こうで道路を見つめるさえこに気づき、「こっちに戻りなさい」と言った。
さえこは大人しく柵を跨いで通路側に戻り、女性に連れられて近くの警察署に行った。
寝巻き姿で血まみれの手首、歩道橋から飛び降りようとしていたというさえこに警察官は驚き、とにかく情報を引き出そうとした。
しかし、何を聞いてもさえこという名前以外は「わからない」と言う。
付け加えておくが、私以外のサブキャラクターは皆、住所も電話番号も、私の苗字すらも、何もわからなかった。
警察官は傷の手当てをしながらも、困り果てていた。
若い警官が
「ヤバイっすよ、この人。精神科に入院する方がいいっすよね」
と苦い表情で言っていた。
騒ぎを聞いて、近くにいた警官がどんどん集まってきて、さえこは自分が座っているソファの周りを沢山の野次馬に囲まれる形になった。
そのとき、音をあげたさえこからKがバトンを受け取った。