さえこが現れて間もなく、また新しいキャラクターが出てきた。
秀人、と名乗った。
最初、男性であるはずの自分の体が女性であることに戸惑った秀人に、旦那は妻である私「むつ」の体であることを伝えた。
秀人は驚き、
「自分は今むつと付き合っていて、後々は結婚を考えている。あなたが言うむつは別人じゃないのか」
というようなことを言ったらしい。
旦那と2人で家にいる時に初めて現れ、「むつ」を妻だと言う旦那に対して挑戦的な敵意を向けた。
旦那はそれをあしらい、他のキャラクターにしてきたように、私という人格がこの体の持ち主であること、他のキャラクターが存在することなどを説明した。
秀人は根気強くそれを説明した旦那に納得し、旦那はいつものように「契約」を結んだ。
次々と短期間に現れる新しいキャラクター全てに、旦那は同じ説明を繰り返し、協力を求め、契約を結んだ。
この「秀人」は、「かつて私がそうあってもらいたかった秀人」の姿だろうと、旦那は分析した。
私は、「オレ」と自称し、旦那に「○○ッスね」という語尾を遣う自分を、やはり想像できなかった。
話を聞いても、首を捻る思いだった。
旦那のお母さんの前でも秀人は出現し、その時のやり取りをお母さんは可笑しそうに語った。
「男なのに女の体というのはどういう気分か」
と問いかけたお母さんに対して、秀人は困った顔で
「ついてるモンがついてないっつーか足りないっつーかなんつーか…」
というような返事をした、面白いわよね、笑っちゃった、と。
私以外の周囲は皆、新しいキャラクターを受け入れ、出現を歓迎した。
これに私の中で何かのスイッチが入ったのか、キャラクターの増殖は更に加速した。