「センセ、帰るん?」
「タクシーも待たせてるしね。では失礼します」
「ありがとうございました」ママが言う。
あかんって。どうにかせな…ってどうでもええけどオーロラの尻尾がブンブンとウチの脹ら脛を叩いてる。
オーロラ何そんな喜んでんのや。体撫でてあげるから。ヨシヨシ♪ちょっと大人しゅうしいや。
あ、作戦思い付いた。オーロラを有間先生の前に置いて動けなくしてみる。
ほら、行けっ。戦艦オーロラ発進や。オーロラのお尻をグイグイ押しながらもう片方の手が有間先生の袖を摘んでいた。
「畑山…出来ればそろそろ手を離してくれる?」
ウチ無言。
「早くしないとタクシー代も上がるんだけどな」
「タクシー代ならママ払うって。今ママ動けへんしちょっとだけ上がってってや」
ウチの思いが瀕死のママにも届いたのか
「…そうですね。せっかくですから上がってってお茶でも。タクシー代は持ちます。元々この子の送り迎えですし」
ナイスや。
ウチに万札握らせて力尽きるママ。
「いいから、ほなお金払って来て有間先生っ」
「ちょっとこの子の話し相手にでもなってやって下さい…私ちょっと横になりますので」
ママしんどそうや。仕方ないなぁ。
「はぁ…お母さんがそこまでそうおっしゃるなら‥」
「ウチの大好きなお茶入れてあげる」
やった。ウチの勝利。
タクシー代を払って戻ってきた有間先生をダイニングのテーブルまで案内する。
こんなウチかてこの慣れた我が家くらいなら大体の事は出来るんや。
「先生お茶どうぞ。粗茶ですが。セルフサービスなんでここまで取りにきて下さい」
「あぁ、ありがとうな。いい匂いだね」
ウチも隣に座る。
「うん。このピーチティーがウチめっちゃ好きなんです。ブレンドは自家製なんよ。ピーチ以外にもちょっとだけ桜の花弁の乾燥させたんも入ってるんです。それに砂糖使わへんで蜂蜜で甘くしてあって」
「へぇ、そうか。うん、これは美味しい。にしても1人で色々出来て凄いな」
「このくらいは物の場所ちゃんと決めてあったら後は大体のイメージでいけますから。それに狭い家やし」
「頑張ってんだな。偉いよ」
「字だって書けるんやで。改行は難しいけど。あ、先生その辺から紙とペン持って来てくれへん?」
「ん、じゃぁこのメモ用紙でいい?」
それを受け取るとウチは自分の名前を書いてみせた。
「どうです?なかなかええ感じやない」
「うん、確かにちゃんと書けてるな。それに女の子らしい可愛い字だし字が書き手を良く表わしてるよ」
ウチは少しだけ照れた。人に誉められたのってなんか久しぶりな気がして心の周りがふわふわする。
ふと気い付いたら足元にはオーロラが寝そべって来てた。
それから音楽の話をして2杯目のピーチティーを飲み終わった頃にママが来た。
「少し薬で落ち着いたから。簡単にご飯作るわね。先生本当にありがとうございました」
「じゃぁ僕はそろそろ失礼します。やることもあるので」
そう言いながら有間先生の手がウチの頭を軽く撫でた。
もう少しママが来なければと思ってしまう。
「ウチ玄関まで送るね、ママ」
外はすっかり雨も止み酷かった嵐も遠くに行ってしまった。
「これならのんびり歩いて帰れるな」
風が軽くて気持ちいい。
「それじゃまた学校で」
「ホンマ歩いて帰るん?」
「うん、1駅分無いしここからなら近いからね。平気だよ」
「あ、痛‥」
ウチは先生に近付こうと歩きだしたら何かに足をぶつけてしまった。
「大丈夫?自転車倒れてたよ。春の嵐のせいだな」
家に自転車なんてあったんや。誰乗ってんやろか。
「あ、それ赤とシルバーの?」
「うん、そうだね」
「それ‥ウチの」
まだあったんや…
引っ越す時に捨てたもんやと思ってたけど。
「中学…それで通ってた‥」
ウチはもう乗られへんのに。
何のために取ってあんのやろ。
そんな思い出残してたって意味無いのに…
なんなんや、もう…
「先生、それ‥乗って帰って下さい。」
「いやいや、気を使わないで。最終的に僕が勝手に残ったんだし。それにちょっと僕には派手だし」
「ええから。乗ってって。使ってや!!」
「…どうしたんだよ?」
「ここに置いて起きとうないねん‥」
「畑山…」
「あ、いや。その自転車も誰かに使うてもろうた方が幸せやろな~って思っただけ」
ウチの幸せのカケラ。
今はただ不幸せを際立たせて辛いだけ。
嫌なもん全部持ってってよ。
ねぇ有間先生。
暫く間があった。
「分かった。有り難く使わせて貰うよ」
「ありがと、先生」
「礼言うのはこっちだけどな」
「鍵付いてる?」
「あぁ」
「なんや無用心やな~。ほなそのまま乗ってって」
ホッとした。
なのに急に触れてみたくなった。
「あ、その前にちょっとハンドル握らせて、先生」
まるで自虐的な行動。
でも押さえられずに。
何も言わずにウチを導いてくれる先生。
ウチはゆっくりと左手でハンドルを持って右手でサドルを撫でる。
「楽しかったな…ホンマ」
懐かしんでんの?
同時にそんな自分が嫌で認めきれずに居る現実をより味わってしまう。
自転車を跨いでみる。
家は路地の突き当たりにあって車も来ないし人も家訪ねてくる人くらいしかけえへん。
すると漕ぎたくなって…‥
ウチは派手に転んだ。
無理に決まってんやん。
ウチあほやな~‥。
「ちょっ何やってんだよ。危ないだろう」
先生が抱き起こしてくれる。
「ごめん。先生。もう無理やのにな」
有間先生の胸はあまりガッチリはしてへんけど温かかった。
「怪我しなかった?」
「ちょっと足ジンジンするかも」
「あぁ擦りむいてるじゃないか。大した事はないけど家入ろう。消毒しないと」
「こんなの平気。痛くてもええねん」
なんやそれ。ウチはマゾか。
「とにかく家入ろう」
「センセ…優しくして」
「はいはい」
それから怪我の処置して有間先生はあっさりと帰ってしもうたんやった。
後でママにもチクチク怒られたんは言うまでもない。
ちょっといつもと違う日常は春の嵐と一緒にウチの心の嵐も巻き起こしてこうして終わってった。
「タクシーも待たせてるしね。では失礼します」
「ありがとうございました」ママが言う。
あかんって。どうにかせな…ってどうでもええけどオーロラの尻尾がブンブンとウチの脹ら脛を叩いてる。
オーロラ何そんな喜んでんのや。体撫でてあげるから。ヨシヨシ♪ちょっと大人しゅうしいや。
あ、作戦思い付いた。オーロラを有間先生の前に置いて動けなくしてみる。
ほら、行けっ。戦艦オーロラ発進や。オーロラのお尻をグイグイ押しながらもう片方の手が有間先生の袖を摘んでいた。
「畑山…出来ればそろそろ手を離してくれる?」
ウチ無言。
「早くしないとタクシー代も上がるんだけどな」
「タクシー代ならママ払うって。今ママ動けへんしちょっとだけ上がってってや」
ウチの思いが瀕死のママにも届いたのか
「…そうですね。せっかくですから上がってってお茶でも。タクシー代は持ちます。元々この子の送り迎えですし」
ナイスや。
ウチに万札握らせて力尽きるママ。
「いいから、ほなお金払って来て有間先生っ」
「ちょっとこの子の話し相手にでもなってやって下さい…私ちょっと横になりますので」
ママしんどそうや。仕方ないなぁ。
「はぁ…お母さんがそこまでそうおっしゃるなら‥」
「ウチの大好きなお茶入れてあげる」
やった。ウチの勝利。
タクシー代を払って戻ってきた有間先生をダイニングのテーブルまで案内する。
こんなウチかてこの慣れた我が家くらいなら大体の事は出来るんや。
「先生お茶どうぞ。粗茶ですが。セルフサービスなんでここまで取りにきて下さい」
「あぁ、ありがとうな。いい匂いだね」
ウチも隣に座る。
「うん。このピーチティーがウチめっちゃ好きなんです。ブレンドは自家製なんよ。ピーチ以外にもちょっとだけ桜の花弁の乾燥させたんも入ってるんです。それに砂糖使わへんで蜂蜜で甘くしてあって」
「へぇ、そうか。うん、これは美味しい。にしても1人で色々出来て凄いな」
「このくらいは物の場所ちゃんと決めてあったら後は大体のイメージでいけますから。それに狭い家やし」
「頑張ってんだな。偉いよ」
「字だって書けるんやで。改行は難しいけど。あ、先生その辺から紙とペン持って来てくれへん?」
「ん、じゃぁこのメモ用紙でいい?」
それを受け取るとウチは自分の名前を書いてみせた。
「どうです?なかなかええ感じやない」
「うん、確かにちゃんと書けてるな。それに女の子らしい可愛い字だし字が書き手を良く表わしてるよ」
ウチは少しだけ照れた。人に誉められたのってなんか久しぶりな気がして心の周りがふわふわする。
ふと気い付いたら足元にはオーロラが寝そべって来てた。
それから音楽の話をして2杯目のピーチティーを飲み終わった頃にママが来た。
「少し薬で落ち着いたから。簡単にご飯作るわね。先生本当にありがとうございました」
「じゃぁ僕はそろそろ失礼します。やることもあるので」
そう言いながら有間先生の手がウチの頭を軽く撫でた。
もう少しママが来なければと思ってしまう。
「ウチ玄関まで送るね、ママ」
外はすっかり雨も止み酷かった嵐も遠くに行ってしまった。
「これならのんびり歩いて帰れるな」
風が軽くて気持ちいい。
「それじゃまた学校で」
「ホンマ歩いて帰るん?」
「うん、1駅分無いしここからなら近いからね。平気だよ」
「あ、痛‥」
ウチは先生に近付こうと歩きだしたら何かに足をぶつけてしまった。
「大丈夫?自転車倒れてたよ。春の嵐のせいだな」
家に自転車なんてあったんや。誰乗ってんやろか。
「あ、それ赤とシルバーの?」
「うん、そうだね」
「それ‥ウチの」
まだあったんや…
引っ越す時に捨てたもんやと思ってたけど。
「中学…それで通ってた‥」
ウチはもう乗られへんのに。
何のために取ってあんのやろ。
そんな思い出残してたって意味無いのに…
なんなんや、もう…
「先生、それ‥乗って帰って下さい。」
「いやいや、気を使わないで。最終的に僕が勝手に残ったんだし。それにちょっと僕には派手だし」
「ええから。乗ってって。使ってや!!」
「…どうしたんだよ?」
「ここに置いて起きとうないねん‥」
「畑山…」
「あ、いや。その自転車も誰かに使うてもろうた方が幸せやろな~って思っただけ」
ウチの幸せのカケラ。
今はただ不幸せを際立たせて辛いだけ。
嫌なもん全部持ってってよ。
ねぇ有間先生。
暫く間があった。
「分かった。有り難く使わせて貰うよ」
「ありがと、先生」
「礼言うのはこっちだけどな」
「鍵付いてる?」
「あぁ」
「なんや無用心やな~。ほなそのまま乗ってって」
ホッとした。
なのに急に触れてみたくなった。
「あ、その前にちょっとハンドル握らせて、先生」
まるで自虐的な行動。
でも押さえられずに。
何も言わずにウチを導いてくれる先生。
ウチはゆっくりと左手でハンドルを持って右手でサドルを撫でる。
「楽しかったな…ホンマ」
懐かしんでんの?
同時にそんな自分が嫌で認めきれずに居る現実をより味わってしまう。
自転車を跨いでみる。
家は路地の突き当たりにあって車も来ないし人も家訪ねてくる人くらいしかけえへん。
すると漕ぎたくなって…‥
ウチは派手に転んだ。
無理に決まってんやん。
ウチあほやな~‥。
「ちょっ何やってんだよ。危ないだろう」
先生が抱き起こしてくれる。
「ごめん。先生。もう無理やのにな」
有間先生の胸はあまりガッチリはしてへんけど温かかった。
「怪我しなかった?」
「ちょっと足ジンジンするかも」
「あぁ擦りむいてるじゃないか。大した事はないけど家入ろう。消毒しないと」
「こんなの平気。痛くてもええねん」
なんやそれ。ウチはマゾか。
「とにかく家入ろう」
「センセ…優しくして」
「はいはい」
それから怪我の処置して有間先生はあっさりと帰ってしもうたんやった。
後でママにもチクチク怒られたんは言うまでもない。
ちょっといつもと違う日常は春の嵐と一緒にウチの心の嵐も巻き起こしてこうして終わってった。