昨年のいまごろ、介護施設の見学をたくさんしていた。僕は生まれて初めて介護施設を訪ねた。

 親の介護をしなくてはならない、となったとき、みな初めてことだから私は介護施設などに行ったことは無いということになる。介護の世界の労働環境とかについても、いろいろ情報が断片的に伝わってきていると思うし、中にはネガティブな情報もたくさんある。

 

  お向かいの家で、やはり高齢のお母さんをお嫁さんが介護していたのだけれど、足腰が立たなくなったおばあさんを抱きかかえてトイレにいったりしているうちに、今度はお嫁さんがストレスで顔面神経痛になり、ついに特養に入れてもたらったのだけれど、順番待ちが厳しく、ケアマネさんなどとも相談し、ショートステイをつなぎつつ待ちで(以前に聞いたことがあったやりかた)で入れてもらってしのいだと言う。そういう話に恐怖も感じ、そうなるまえになんとかしなくてはと思った。

 

  とうわけで、施設を探しの行脚が始まった。それは結局半年続いた。

  最初に近所にある居宅介護支援という形のサ高住よりもサービスがさらに簡単なとこを見た。サービスは全部ケアマネさんと相談していろいろつけてもらうことになっている。ごはんもオプション。母が入るには無理だなと思ったけれど、そのときはまだ母を呼ぶ前で会ってどんな状態か僕もあまりわかっていなかった。それでも手始めに近所だから、電話してすぐ見に行けた。

 

  コロナのこともあったが、簡単に消毒して見せてくれた。2階建て、そんな多い部屋数ではない。最初に通された食堂は、そこに入居者が三人くらい座っていた。コロナのせいで、パーティションがあって、一人ずつ座って無言で居た。それを見た瞬間に、僕はもうすでに自分のしようとしていることは残酷なことなのだと理解した。ここに母がぽつんと座って一日をすごしているという図が見えた。ここは日中はそれぞれ契約しているデイサービスに行ってしまうので、残っている人はこんな感じ、ということだと思った。部屋のほうも見せてもらった。空きはありますよと言われた。きれいな部屋だったが、最初に見たあの食堂での様子でもう、無理と僕には思えてしまった。洗濯は職員がしてくれるとか、いろいろ説明をうけた。その時いた職員は二人、夜は無人と言ったと思う。

 

  初っ端に見たあの食堂でのポツンと一人ずつ座らされたあの様子が、印象に残りすぎてしまい、もう少し賑やかにくらしているところはないのだろうか、が僕にとっての一つの指標となった。

 

 けれども、その後いくつかのさサ高住を見てまわっても、だいたい昼間は入居者が出払っていることが多くて、いる人がぽつんとしているという状況を見ることになった。いろいろな状況はあり、見学対応してくれる人が施設長で背広を着ている男の人だったり、中を見せてくれというと見せてくれないとこもあった。認知症もあるのでグループホームも見た。いい感じの若者が施設長ということで、その人の感じはよかったが、やはりあまり中を見せてくれたがらなかったりもした。

 

  有料老人ホームもいくつも見に行った。やはり背広の男の人が施設長だったり、私も現場やってますという感じがするはきはきとパワフルな女性の施設長とか社長とかが出てきたりもした。ここはいいとこだな、と思ったあるところはしかし、介護施設ではない、ということを表に出してあった。生活の場を提供します。けれども。となっていた。そういうやりかたもあるのかなと思った。どう見ても住んでいる人が車椅子であったり、介護を必要とし、介護認定もとっている人たちなのだけれど、介護施設ではない、ということを明記することにはなんの理由があるだろう。

 

 この地域で入居金が一番高くで、ケアマネさんとかにきいても評判のいい有料老人ホームがあった。目ん玉の飛び出すような金額がHPに書いてあって、うちは関係ないなと思ったのだけれど、とりあえず見に行った。とても感じがいい生活相談員という立場の女性が出てきて説明をし、こちらの話もよくきいてくれた。みなさんがあつまる広い部屋のところも見せてくれた。年数経っているから介護度が高い人も多く、こちらでは看護師24時間常駐ということもあって、どこか病院のような風情でもあった。説明をきくと確かに医療面でのサービスのようなところはしっかりしている。けれども、入居している人の介護度が重い人が多すぎると、母はここで誰かと友達になったりできるのだろうか、そんなことを心配した。説明を改めて聞くと、入居年齢が若いと入居期間が長いと考えられるために一時金が高くなるのであって、母の年齢だとはそうでもないことがわかった。実際には払えなくもない金額だった。つまりほとんど健常者のうちから入りに来る人もいるということだ(見ていると実際いた)。大金を払って。母の入居がそんなにも高価でないことがわかると、ここもいいかもと思った。居室に案内された。そこで衝撃的なことがあった。悪臭がはなはだしかったのだ。ここはしばらく空いていた部屋なので、下水が上がってきてという説明だった。他にもいくつか施設は見ていたし、築年数もチェックしていたので、年数のわりにここが汚れていることが分かった。生活相談員のかたがいい人だったので、悩んだが、ここに入るのもやはりやめた。この悪臭問題は、他の見学でもいくつか経験することになる。(つづく)。