------これから3分間は、言葉を使わずに互いにコミニュケーションをとっていただきます。

トレーナーはそう言った。

  我々は3分間、言葉をしゃべらないで初対面同志、歩き回りながら会釈したり、自分の名札を指さしてみせたりして、なごやかにコミュニケーションをしようと試みていた。

  やがて3分間がおわると、トレーナーは”仮面舞踏会”とかいうようなタイトルの曲をBGMにしてその歌詞を読んだ。

  その歌詞は、我々の日常が本心ではない作った感情や笑いで構成されている空しいものであることを歌っていた。

  この記事は

  2015年に書いた自己啓発セミナー ビーユーの続編である。3で尻切れになっていたが、アクセスして読んでいる人がいるようなので、続きを書いてみることにする。バブル真っ盛りのころにビーユーやライフらダイナミックスやブレクスルーテクノロジーやライフスペースを受講した人たちが、人生の途上で、あれらのものと出会ってしまった自分史に決着もしくは総括を与えたいと願っているのかもしれない。

 1989年。5月くらい。ビーユーセミナーのアドバンスコース。けっこうな費用を払い、集まった参加者は全体で100人弱。2つのグループにわかれ、それぞれにトレーナーがついた。

  最初一日目。冒頭の無言のコミュニケーションが終わると、 セミナー参加の目的をそれぞれがシェアし、それを聞いて相棒を選んだ。僕の相棒は、30歳の保育士だった。

---参加して、得た体験を音楽や歌などの作品にしたい。(そのころバンドをやっていた。)

   と僕が言ったのを聞いて、相棒になりたいと思ったそうだ。 相棒を選べと言われた瞬間、僕のほうにつかつかと歩いてきて、あなたと相棒になりたいとその人は言った。逆に僕は、誰を相棒にしたいか決めていなかった。

   ---- みなさん 注目してください。今 彼は決めていなかった、と言いました。 これは、人生の中でよくある一つのパタンなです。

とトレーナーは言った。その指摘は、僕の人生のパタンでそれまで繰り返されてきたもののようにも思えた。自分が、これが欲しいということをはっきり言わないという。

  次の日、秘密を打ち明ける実習をした。 カトリックで神父さんに告解するのに似ているが、参加者は、なんとかして自身の精神性を高めようとしているから、かなりハードな秘密が打ち明けられるた。この実習を通じて、僕自身もかなりハードなことを話したので、気分がわるい感じになった。

 

 その後  フィードバックの実習ということが行われた。 前に立って、全員から、見た目の印象で、最悪の部分を言葉で鋭く指摘される。

 これはかなりひどいことを言うので、女性の参加者はけっこう泣いた。僕もずいぶんと嫌なことを言われた。あとでわかったが、アシスタントとして入っている卒業生は、このとき盛り上げるために、やたら厳しいフィードバックをするように指導されている。

 休み時間のあと、大きな会場に移り、飛行機の客席に見立てた席に、全員同じほうを向いて座る。効果音が流される。トレーナーのガイドで、リラックスして飛行機に乗っていたが、急に騒音とともに、飛行機が墜落するというシチュエーションになる。アシスタントらが叫びをあげ、トレーナーの鬼気迫るガイドで、リアルに恐怖と生命の危機を体験する(ちなみに私はノリきれないので無理だった)。もうダメだというところまできたとき、目の前に置いてあるノートに、あなたの伝えたい人に伝えたい言葉を

  ----さあ 書いて!!

とトレーナーは叫ぶ。入り込んでノリに成功した人たちは、泣きながら書いている。(僕は、ノレナイ自分は参加費が無駄になっていると半ば残念な気になりながら、とりあえずなんか書く。)

  その後小さいグループに分かれ、書いたことを分かち合う。入り込めた人はそれなりに感動している。

  休憩のあと、また大きめの会場に入る。2人ずつペアになる。なるべく男女で組めという(エネルギーの関係だという説明である。なんとなく、エッチなことをさせられるかもしれない不安感。)。実はセミナー内で通称ウーハーと呼ばれた体操のごときことをする。やりかたは、四つん這いになり、目の前にいる相手の目をみつめ、人生で出会った憎たらしいことを思い描き、その憎しみのエネルギーを、”ウ―”という獣がうなるような声とともに吐き出す。そのとき、腕立てふせをするような(あるいは正常位で性行為を行う男役のような)うごきをする(これはやばいと僕は思う。これをせよというのか!!!)。やっているうちに憎しみのエネルギーが最高潮に達すると、トレーナーのかけごえを同時に、クッションを利き手で

 はっはっはっはっはっはっはっはっ

と強く息を声を出しながらたたき続けるのだった。これにより、怒りのエネルギーを発散し人によっては、生まれてこのかた経験したことのない解放感を経験する。実は僕はこれもノレなかったので、何も感じなかった。

  その後、たしか、トレーナーのガイドで、”完了”という言葉を学び、全員で

 ”完了です!”

と叫ばされた。 私自身は、ここまでのセミナーの流れで、すこしも”完了感”を味わっておらず、この叫ばされに強い違和感を感じたので、この時間のあとの全員での昼食のときに、グループのみんなに”僕は”完了していない”とこぼしていたら、

 ”おまえ”いいかげん完了せえ”

と言われ、立ち上がって言いたいことを言ってみいと 言われたので、大食堂で立ち上がって叫んだ

”みなさん。きいてほしいことがあります。実は僕は

 完了していませーーん!!! これに15万円も払って、参加したのに、この2日で少しもなにも得たものがありません。

 みんなで、おなじほうむいて完了でーす、といわされても、僕は納得しません”

すると、大食堂で昼食していた100人くらいいた参加者が、どっと笑って、そのあと、お笑いのような乱闘になって、いろんな連中が、”完了”について、騒ぎ出した。あとで、この顛末をみていた人々から、あの”完了してませんーーん”を叫んでいた僕は、ものすごく明るい顔でそう叫んでいたと言われた。  

 

(つづく)