ビーユーセミナーはベーシック、アドバンス、リアライゼーションとう3段階のコースでなりたっいて、それぞれ、7万5千円、15万円、無料という価格設定になっていた。順番に受講しないと次にすすめない。最後のコースが無料なのは、これはセミナーとは名ばかりの勧誘活動期間をたしか3か月ほど行うからであって、もちろんその期間中にいくらかセミナーめいたことはやるのだが、メインは勧誘であった。勧誘という言葉は、セミナー側は使いたがらなくて、そのかわりエンロールと表現していた。


 さておき、ベーシックコースは3日間の通いのコースであり、アドバンスは4日間の泊まり込み(どっかのホテルに移動して)、リアライゼーションは3か月で、こっちは通い、というより自宅を事務所にして勧誘し、たまにオフィスでミーティングしているようなもんだ。こう書くと、結局妙な勧誘活動につながる悪の道ではありませんか、と思われると思うし、実際そうなんだろうけれど、そのときセミナーを主催していた、N氏とか、大阪のセミナーを任されていたY氏らは、おそらくまだ若かったし、純粋に、このアメリカ発のセミナーが日本をよくするんだとか思っていたのだと思う。そこにあまり邪念はなかったのだと僕は思っている。

 このセミナーの内容は参加してない人には口外しないようにルールが言い渡された。それは先に内容を知ってしまうと、セミナーの効果が減ってしまうからだと説明を受けた。セミナーはもと受講生であった卒業生であるところのアシスタント達、それにビーユーのスタッフ、そしてセミナーを実質仕切るトレーナーにより進められた。

 ベーシックでやったことは、たしか
 1 会場を歩き回りながら、できるだけたくさんの参加者と言葉を使わないで目を合わる
 2 1をひとしきりやったあと、だれでもいいから2人組になって、感想を述べ合う
これはダイアードと言って、以下なにか実習をやりたびに、同様のことをする。
 3 参加者どうしでグループを作り、好きなアシスタントを選んで自分のグループのアシスタントになってもらう
 4 自分が普段は話しかけないような人を会場から選んできてかかわる
 5 参加者のだれかを捕まえて、自分の過去の経験で秘密にしてきたことを話す
 6 父、とか母を思い描き、思い描かれた父母に、伝えたいことを伝える
 7 赤黒ゲーム

 5番目の実習で、参加者の心はどこか解放され始める感じになる 
 6番目の実習で、僕が18の時に死んだ父を思い描いたとき
  おそろしいことに、それまで感じたことがなかった おどろくべき感情が
 こみあげてきて、僕は心の深いところから泣いた。

  父は、僕が友達の家に遊びにいってそこで見るようなふつうのお父さんではなく、
 気持ちがいつも抑制されていて、酒を飲んだら性格が粗暴になる、そんな田舎の理科の教師だった。しかし父は、僕が科学という分野で仕事するようになる理由そのものだった。僕は4人の兄弟の中で、一番父をうけついだ。このセミナーを受けたときは24歳で、父が死んで6年たっていた。僕は、いつも父のくれた理系という自分の傾向からはすれることができずに生きてきた。それでも、生前の父は、やはり友達の家のお父さんのように親しみ深い人ではなかった。

  セミナーは潜在意識の向こうに、僕が知らないままに、僕が父、という人を愛していたことを明らかに示したのだと思う。たぶん、いまから考えるに、僕の精神は父そのものだ。弱いところも、また素敵なところも。父は幼いころに生母をなくしている。東京出身で、和歌山の片田舎の教師になった理由には、いくらかさびしいものがあったと聞く。母は、父のやさしさが好きだったという。

8 選択の実習 抱擁の実習と言う人もいる
   とりあえず、この実習では日本人があんまりしない抱擁をけっこうたくさんの人とすることになる。これは目の前に現れた人のルックスだけで判断して、気に入らなければ見てるだけ、
まあまあよければ、握手、気に入ったら抱擁、という3段階に態度を表すものである。
  これをやっていくと、そこかしこからすすりなく声が聞こえてくる。なぜだろう?
  そのうち、みながみな抱擁しるようになる。トレーナーのガイドがいくらか効果的に入ってくる。自分の人生に出てきた人のことを、大切にしてきましたか?というような。

 セミナーは、最後に


  9 こちらからあちらに行きます

 という実習でおわる。
  この実習7は、100人ほそいる参加者全員は、セミナールームの片側に集められ、反対側に一人ずつ移動する際に、なにかパフォーマンスをしながらいかねばならないという実習だ。
しかし、ほかの人を同じことをしてはならない。
  それで芸達者な人は、なんか面白いことをやって、移動してやろうとわくわくする。しかしそうでもない人は、なにをやっていいかわからないで困ってしまう。
 おどろいたことに、最後には100人全員何かを編み出して、移動できてしまう。


 9の実習をやったあと、トレーナーは

 人間は、こちらからあちらに行きます

 という意図さえあれば、方法は編み出せてしまうものである

 という重要なメッセージを伝える。(このメッセージはヴィジョンとよばれる未来像を実現するために行動するというセミナー全体のテーマとなる。)

10 最後に、グラデュエーション 卒業
  というのをやる。グループのみなで、手をつないで目をつむり、
  トレーナーのガイドに従って3日をふりかえっていく。このセミナーに紹介してくれた
  紹介者のこともふりかえる。3日おわるころには、参加者は、とてもよい経験をし
  感動もし、紹介者に感謝をする気持ちがピークにたっしている。

 突然、トレーナーの

  さあ 目をあけましょう

 という言葉とともに、目の前に紹介者が花をもって立っていて 

  おめでとう 

 の嵐になる。感動して号泣するものが続出する。僕の場合は、紹介者に連絡をとらずに
 勝手に受講したので、セミナー側もS先生に連絡ができなかったらしく、S先生のかわりに 誰か、わからない人がたっていた。



  こうして、ベーシックコースの3日間が終わる。(つづく)