少し前にある雑誌で
「白内障手術は手術に時間がかかるわけでもなく、深刻な危険も少ないので手術前検査はムダな医療」
なんて滅茶苦茶な記事を目にしました。
眼科関係者なら誰もがこう思うはずです。
"そんなわけあるかいっ!!"
そこで今回は手術前の詳しい検査"術前検査"は何を目的に何を見ているか、詳しく紹介します。
術前検査の重要性
術前検査で見るのは"手術の適性"と"術後眼の中に入れるレンズ(眼内レンズ)の度数"です。
たしかに術後の見え方がどうなってもいいのであれば、術前検査は殆ど不要と思われます。
しかしそれを行うと、白内障による見えづらさを感じて手術を受けた方が手術前より見えづらくなる可能性が非常に高いです。
そんなおかしな手術は誰も受けたくないですよね。
そこで重要になってくるのは"眼内レンズの度数"です。
白内障とは、眼の中でカメラのレンズのような役割を果たしている「水晶体」が白く濁ってくる症状です。
そして、その濁ってしまった水晶体を人口のレンズに入れ替えるのが白内障手術です。
また、この時に選択するレンズの度数により術後の見え方を選ぶことができます。
しかし整合性のあるデータがなければ度数の検討もつきません。
では実際にどんな検査が必要でしょうか。
今回は手術が可能かどうかをみる"適性検査編"と
見え方を決める"度数決定編"の二つに分けてご紹介します。
~適性検査編~
①眼底検査
②角膜内皮細胞検査
③血液・血圧検査・内服薬のチェック等
~度数決定編~
①オートレフラクトメーター、ケラトメーターによる他覚値検査
②現状視力を把握する自覚的視力検査
③術後に複視のリスクを確認する眼位測定
④不正乱視の有無を調べる角膜形状解析
⑤眼内レンズの屈折力を測定する眼軸測定
今回の記事では適性検査編を紹介していきます。
~適性検査編~
①眼底検査
まずは、眼の中の状態を見てみないとなんとも言えません。
この検査では、白内障の進行度合いだけでなく、他の疾患がないかも確認します。
例えば、緑内障や黄斑変性症などの具合によっては白内障の手術をしても全然見えるようにならないなんて場合も稀にあります。
見えづらい状態がそもそも白内障の影響なのか確認してからということです。
②角膜内皮細胞検査
角膜の最も内側の細胞(内皮細胞)の検査です。
この数が一定数より少ないと手術を受けれない可能性があります。
角膜内皮細胞は水分を目の内側(前房)に引き込むポンプ作用による新陳代謝で、角膜の透明度を保っています。
通常は加齢に伴い細胞数が減少していきますが、コンタクトレンズによる酸素不足でこの減少のスピードが速まる特徴もあります。
内皮細胞の数が極端に減少すると角膜が濁って視力障害を引き起こします。
手術の際の角膜切開等により減少する可能性があるので、手術したことによって角膜が濁って視力障害が起きるというのを防ぐためです。
③血液・血圧検査・内服薬のチェック等
血液検査を行って前進の状態をチェックする必要があります。
血液検査の目的は大きく2つあります。
一つは全身状態の確認です。
手術前には何も既往歴がないと言っていた患者さんで糖尿病が見つかるケースなどもあります。
糖尿病が見つかった場合でも、早く手術した方が良い場合もあれば、HbA1cの値等によっては手術できない場合もあります。
もう一つは感染症を持っていないかの確認です。
白内障手術では殆ど出血しませんが、僅かに出血する可能性があります。
その際に院内での感染をしないように注意する必要があります。
内服薬に関しては、薬の種類により手術が難しくなる場合があります。
また、血液をサラサラにする薬を飲んでいると、手術には支障ありませんが、術後に結膜(白目)が赤くなりやすいなどの症状が出ることも事前に把握しておく必要があります。
今回の記事でご紹介した内容を読んで頂いた方には、冒頭の
「白内障手術は手術に時間がかかるわけでもなく、深刻な危険も少ないので、手術前検査はムダな医療」
というのはあまりに大嘘だと感じるはずです。
次回の記事では術後の快適さを決定する"度数決定編"を書いていきます。
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武蔵野タワーズゆかり眼科