ただの笑い話として済ませてもらえるか分からないが、こないだ友達と電話をしているときに思い出した、最低なエピソードを今回は綴ってしまおうと思う。



20XX年のクリスマス。私は約1ヶ月ほど前に別れた元彼とデートをする約束をしていた。しかし、3時間の寝坊によりすっぽかされたため、別の男と夕飯を食べる約束をした。


その男のことは1ミリも好きじゃないどころか、キモいと思っていたし、いや、なんならキショイと思っていたけれど、元彼にデートをすっぽかされて新宿で一人佇んでる間に寒さと怒りで頭がイカれて、コイツに連絡をしてしまった。


待ち合わせのレストランは「お前、絶対1ヶ月前から予約してただろ!」というような店だった。今思い返せば、この男は超の付くお坊ちゃんでご両親も名が知れた人だったから、なにかチートを使ったのかもしれないが、店内には「はいはい、お上品ですね」といった感じのカップルが四方八方で「はいはい、お上品ですね」といった感じのコースディナーを食べていた。


高層階にあるレストランから眺める夜景はとても綺麗で、うっとりしてしまう瞬間があったが、正面にいるキショイ男を見た瞬間に、家の天井でも眺めていた方がマシだったかもしれないと思ってしまった。


とにかく早く帰りたい気持ちと、元彼にすっぽかされた怒りと、綺麗な夜景とキショイ男のマリアージュに耐えられず、私はこの世で2番目に苦手なお酒である、赤ワインをバカスカ飲んだ。お上品な奴らを横目にバカスカ飲んだ。


すると、案の定1時間ほどでトイレに駆け込むハメになった。それから1時間ほどずっと、夜景の綺麗なレストランの便器をじっと眺めていた。


ひと段落して席に戻ると、男は私が席を立った時と変わらぬ顔で座っていた。この時点で私も大分イカれているが、コイツもなかなかイカれている。普通は1時間半も女が席を離れていたら、相当な体調不良か帰られたかもと思うだろうに。


まあ、これまでの話は全て余談で、この後、私は席でパスタを全部吐きました。といっても、こういった店で出てくるパスタの量なんてたかが知れているので、大した量ではないんですけどね!


そんでもって、場違いなお客様である私は店の人に詫びを告げ、男にはお礼と詫びを告げ、そそくさと一人で外に出るとめちゃくちゃ気分爽快だった。


だから、その足で友人に誘われたクリスマスパーティーへと向かった。その会場もまた高層階の夜景が綺麗なだだっ広いマンションで、先ほどまでの出来事を全て忘れたいと思った私はまたバカスカとお酒を飲んだ。しかし、赤ワインではないので吐きはしなかった。


そのパーティーの終盤で、友人から家主の男を紹介された。マジでデブのイタリア人。一説によると199cm97kgあるらしい。年は私より11歳上で、これでもかと言わんばかりの自信があった。そりゃそうだよな。ビルで残業してる奴らを景色として眺める男だからな。


そんな話もまたさておき、朝方私はその人の所有している同マンションの別室でシャワーを浴びることにした。なんせクリスマスディナーでゲロ吐いたもんでね!


すると、そのイタリア男は脱衣所まで付いてきて、急に私のことを褒め出した。やれ君は綺麗だの、ユーモアに満ちてるだの、とにかくひたすら褒めてきた。私はそれが鬱陶しかった。


というのも、どうせヤりたいだけなのに面倒くさいし、ダサすぎる。さっきまでの自信はどこいったんだよシコーネ!(シコーネとはイタリア語でおデブちゃんを意味する)


ってなわけで、その場で私は全裸になり、そいつも風呂場まで連れ込んだ。その後はお察しの通りである。特に面白いポイントもなければ、見所もない。あえて言うとすれば、ご立派なボディに反してかなりの短小で、ソレは私の親指によく似ていた。


事後にその男は本気で身の上話をしてきた。「俺の母親は高齢になってから俺を産んだから、そんなに先は長くないかもしれないんだ。俺の父親は〜」とか「妹は日本のインターナショナルスクールで教師をしていて〜」とか、初対面の酔っ払いにとっては死ぬほどどうでもいい話をベラベラと話してきた。途中で痺れを切らした私が「その話聞かなきゃダメですか?」と尋ねると、彼は満面の笑みで「キミに決めたよ」と言ってきた。


いやいや、ワシゃポケモンか。はたまたお前はバチェラーか。たたかうかにげるか選択肢をいただけるのなら、速攻でこの場から逃げますけども。なーんてことを考えていたら、また身の上話をしてきやがった。


すげー長いので要約すると、「これまで金目的で寄ってくる女はたくさんいて、僕の話を真剣に聞くフリをしてくれる子もたくさんいた。けれど、キミほど正直で駆け引きなどせず、自信に満ちた女性を見たことがない。だから付き合おう」という話だった。気の毒だが相当イカれている。


しかし、こっちも負けず劣らずイカれていたので、そんな同情しかねない話を前にして、「赤ワインを飲もう!」と提案した。おかげさまで私はまた仕上がったが、この男は全くお酒が飲めないので、ソファーで一人眠ってしまった。


なので、私は声もかけず、鍵も閉めず、この男の部屋を立ち去った。そこら中に高価なものが置いてある部屋だったが、今日会ったばかりの女を家にあげるような男の部屋のセキュリティーなんて知ったこっちゃない。


以上が、私の過去最低でイカれたクリスマスのお話。そして、このクリスマスのことは友人と先日電話をするまで、私はすっかり忘れていたという一番恐ろしいお話でした!


ぜんぶ元彼のせいだ。