「お前ほど当たり障りなく場をこなせる人間いないからさ、アタシのお客さんが連れて来たジジイ転がしに1時間だけ歌舞伎来てくんね?マジで頼む!」


たしか深夜3時頃だった。親友でキャバ嬢のマリちゃんからこんな電話で呼び出され、"アフター"と呼ばれる店外での接待に顔を出したことがある。


指定された区役所通りのバーへ入ると、青とオレンジの色違いのバーキンを持った小太りの男がマリちゃんを間に挟んで二人座っていた。この時点でニヤケが止まらなかったが、私は青いバーキンの持ち主である肥えたカッパみたいな男の横に大人しく座った。


着席してすぐに肥えたカッパがGacktの『VANILLA』を熱唱し始めたので、私が笑いを堪えながらマリちゃんをチラチラ見ていたら、「お前こっち見んなwww」というLINEが来たのを覚えている。


そんな話はさておき、ここからが問題なのだが、当たり障りなく場をこなせるはずの私と肥えたカッパの間で戦争が勃発した。ちなみにキュウリをかけた争いではない。


事の発端は肥えたカッパが私のスカートの中に手を入れてきたことだった。この時点で私以外のメンバーがお酒をたくさん飲んでいることは知っていたので、こういったこともボチボチ想定内ではあったが、肥えたカッパの「そんな格好してんだから触られるのも承知でしょ〜?おいで」という発言がどうしても気に食わなかった。てか、キショ過ぎた。


私がタイトな服を着ていることが、なぜイコール触られるのも承知という解釈になるのか。私はあなたに触られることを求めてこういった服を着ているわけではないし、自分のスタイルに合う服だから着ているだけなのに。てか、「おいで」ってなんなの?山Pでも無いのに。肥えたカッパがなに言ってんだよ!キモ!


と内心思っていたら、これら全て口から出てしまっていました。


そりゃあカッパはカンカンに怒り、「生意気な女」だの「ブスのくせに」だのありったけの悪口を言い返して来たのですが、こちらは一歩も食い下がる気がないので、「あなたの理論で言えば、"そんな高いバーキン持って歩いてるんだから強盗に遭っても仕方ない"ということになりますし、腕にしてるその時計だって"そんなの見せびらかしてるんだから盗まれるのも承知"という話になりませんか?」と尋ねると、さらに怒ったカッパは「帰れ!」と言ってグラスを投げて来たので、一人で帰ろうとしたところ、後ろからマリちゃんが「穏やかじゃないね〜!アタシも帰るぅ〜」と言って一緒に店を出てくれたので、二人で飲み直すことにしました。


こんな肥えたカッパと遭遇する羽目になったのはそもそもマリちゃんのせいではありますが、この時、この人とはずっと友達でいようと改めて思ったのを今でも覚えています。


この日、帰りのタクシーでGacktの『VANILLA』をゲラゲラ笑いながら口ずさんでいたことも、最終的に私のベッドでヨダレをダラダラ垂らしながら寝ていたことも、寝ながら拍手をしていたことも、それを愛おしいと思えたことも。今でもなぜか覚えています。