友達のライブを観に行ったときのこと。
会場は教室の掃除箱に次いで、とても狭い空間だった。当然、客席にイスなどあるわけもない。
そんな会場を見渡した時、持病の発作が出てしまった。私は幼い頃から"怠惰"と"厚顔"という病気を患っており、頻繁にこの発作に悩まされている。※実際に悩まされているのは当人ではなく周囲の人間。
そんな時、ちょうど目の前を通りかかった顔見知りのバンドのボーカルに声をかけられた。
「お久しぶりです!元気でした?」
「元気ー!てかこの会場初めて来たんだけど、座るところとかあるー?」
「ないんすよー。あ、楽屋座ってていいですよ!」
「えー!それは申し訳ないから大丈夫だよー!」
「いやいや!いいっすよ!」
はい、その親切心待ってました!!
ありがとうございます!!正直、座るところがないことは分かってて言いました。
こうして、私は楽屋の椅子にありつくことに成功し、友達のバンドの出演時間まで椅子にお尻をくっつけて体のバッテリーの充電をさせてもらっていたのですが、この場所へ導いてくれたボーカルの男が楽屋から消えた途端、知らないバンドのギターの男に声をかけられました。
「ところで、ガールはどなた?」
「あ、私は◯◯ってバンドの友達です」
「おお!そうなんだ!」
「お邪魔してすいません(笑)」
「大丈夫だよー!」
ややクセが強めの人間に話しかけられたかと思いきや、こいつのクセが強めなのは冒頭だけで、そのまま会話を続けていると、近くに座っていたベースの男が話に入ってきました。
「名前は?」
「あ、ユウカです!」
「え?」
「ユウカです!」
「ん?」
「ユウカです!」
「ん?」
え、こいつクソ耳遠くね?もしかして、私の声が高音すぎてベースのお前には聞き取れない感じ?と思った時、ギターの男が「お前、耳遠いの?(笑)」と適切な質問をベースの男に投げかけました。すると、ベースの男は「聞こえてたよ、たくさん話したかっただけ」と不適切な回答を投げ返してきました。
「え、キッショ!どういうお笑い?」と言いたい気持ちをグッと抑えて、「え?なにそれ!(笑)」と返しました。
すると、ベースの男は顔色ひとつ変えず、私の隣に座り、フェスでベースを弾く自分の動画を見せて来ました。めちゃくちゃ高速で"タッタカタン♪ディロリロリーン♪"とベースを弾き続けているだけの動画。
ハッキリ言って、私は楽器の良し悪しとかテクニックとかそういうの全く分からないので、「これ全然手元見てないけど本当に弾いてるの?」としか言えませんでした。「俺ぐらいになると見なくても弾けるよ」とベースの男は相変わらず意味の分からないことを言っていました。
いや、言ってる意味は分かるんですよ。「俺ぐらいベースの上手い人間は手元なんて見なくてもカッチョよく弾けるぜ!」ってことですよね。しかし、だとしたらなんでお前は30手前にもなってこんなクソ狭いライブハウスで聞いたこともないバンドでベース弾いてんだって思ったんです。
余談はさておき、このベースの男が今度はおもむろにカバンから小袋を取り出し、何かを貪りだしたので「なに食べてるの?」って聞いたんです。別にコイツがなに食っててもいいんですけど、会話しないと気まずい空気感だったので。
そしたら、「チョコ食べてる」って言われたんです。これが今日コイツから発された言葉の中で1番まともな言葉でした。
「ふ〜ん」
私はそう言いながら、チョコレートを貪るベースの男に顔を向けると、あらビックリ。
なんと食べているのはチョコレートではなくドーナツでした(^^)(^^)(^^)
もうサッパリ意味が分かりません。
だって、チョコレートドーナツとかでもないんですよ。マジでミスドのオールドファッションみたいなプレーンなやつを食べているんです。そろそろ、意味が分からないとか変な奴だなを通り越して普通に怖くなってきました。
でも、そもそもなんですけど、ベーシストという時点で変な奴に決まってるんですよね。だって、マジでただの偏見ですけど、バンドには色々楽器がある中でベースを弾く意味が分からないじゃないですか。
例えば、
ボーカルは「俺歌上手いしボーカルやろうかな!」
これは納得。
ギターは「俺、歌は苦手だけど、ギターなら弾けるかもしれないし、なんかカッコいいからやろうかな!」
これも納得。
ドラムは「ダイナミックでカッコいいしドラム叩くの気持ちよさそうだな!よし、ドラマーになろう!」
これも納得。
キーボード「子供の頃からピアノ習ってたし、このままキーボードやろっかな」
これも納得。
しかし、ベースはやるに至る経緯が分からなすぎる。だって、弦楽器を弾きたいならギター弾けばいいじゃん。
可愛い女から「なんか弾いて〜♡」なんて言われた時も、ベース弾いたってなに弾いてるか伝わんねーし。
あと、ライブの最中にベーシストを見てる奴なんてそいつの親族以外にいないし。その割に間違えるとすげー目立つし。
こんな数々の理由を押し除けてまで、ギターではなくベースをチョイスする時点でそいつは変に決まってるんですよ。
そんなことにも気が付けず、ベーシストと会話をしていたこちらが愚かでしたし、なにより出演者でもないのに楽屋に座らせてもらおうという魂胆が最も愚かだったという話でした。