「旦那さんのどこが好きですか?」


こう尋ねられると、決まって私は「ないです」と答えてしまう。 


もちろん、彼にいいところがないわけでも、彼に好きなところがないわけでもないが、なぜか上手く答えられないのだ。


この「ないです」は、言い始めたらキリがないですという意味とも違う。逆に「旦那さんのどんなところが嫌いですか?」と聞かれたら、すぐに答えられる。


ドアやタンスを半開きのまま出かけるところや、クシャミがうるさいところ。やや冗談が通じないところや、テロッテロのパジャマをいつまでも着ているところ。23歳にもなって「ピアス空けてみたい!」とか言うところや、ご飯食べながらテレビを見ると箸が止まるところも。


こうして思い浮かべるだけでも、心底イラッとする。


嫌いな理由はこんなにもスラスラ出てくるのに、なぜ好きな理由は出てこないのだろうか。

もしかして、私は彼のことを好きではないのだろうか。


いや、そんなことはないはず。


部屋に飾られた彼との写真を手に取りながら、部屋を行ったり来たり。

思考も堂々巡りで、行ったり来たり。



そういえば、元彼の好きだったところは明確に言える。


羽振りの良いところとフットワークの軽さ。めっちゃ音痴なのにいつも歌っているところが好きだった。


最後は、道玄坂のガールズバーの女と浮気されて別れたし、単位とブラホックをまともに取れないダメな男だったけど、良いところ・好きだったところをちゃんと覚えてる。


なのに、なぜ旦那さんの好きなところは言えないのか。


堂々巡りに堂々巡りを重ねながら、ふと冷蔵庫のイチゴに手を伸ばして気が付いた。


もしかしたら、好きには大した理由なんて無いのかもしれない。


私は柄にも無く、イチゴがこの世で1番好きな食べ物なんだけど、「イチゴのどこが好きですか?」と聞かれても「好きだから」「おいしいから」としか答えられない。


逆に「イチゴのどこが嫌いですか?」と聞かれたら、「タネが気持ち悪い」「ヘタが邪魔」「たまに歯に果肉が張り付く」とかそれなりに出てくる。この世で1番好きなのに。


なんかさ、好きなんてそんなものなのかもしれない。


「どこが好き?」なんて聞かれて、ペラペラと理由を話せるうちは、そんなに好きじゃないのかもしれない。


本気の好きほど、理由なんてないのかもしれない。


無償の愛ならぬ、無性の愛こそが、一生の愛なのかもしれない。












知らんけど。