夜23時就寝、朝起床。
もちろん、コーヒーは無し。
お酒もタバコもやめた。
歌舞伎町にいる友達とも長いこと会っていない。夜中の1時に飲みに誘われることもなくなった。
妊娠とはまるで出家のようだ。
出家に比べたら、食欲、財欲、名誉欲、睡眠欲に加え、多少の色欲までも許された妊娠は断然イージーとも思えるが、決してラクではない。
私は妊娠に気が付いた時、この子を産むかは悩んだものの、お酒とタバコはすぐにやめた。
もしも、後に自分が産む選択をした場合、「あの時、すぐにやめればよかった。」と悔やむだろうと思ったから。
今、この時の自分に心から感謝している。
意外とあっさり禁酒禁煙には成功したものの、口が寂しくて、さみしくて。夢中で実家の冷蔵庫の中身を食べ尽くし、廃棄率0%の冷蔵庫にしてみせた。
そのおかげで、妊娠前よりも体重は20kg近く増えた。
20kgも増量すると、ボディーはもちろんのことパーツ1つ1つも太く野暮ったくなり、昔は自称"コカコーラの瓶ボディ"だった女が、今や信楽焼のたぬきと瓜二つの姿になった。
お腹に手を当て、姿見を覗く。
そこには愛らしく朗らかな妊婦ではなく、まるで大きな壺を抱えた太っちょがうつっていたけれど、そんなに悪い気もしなかった。
現在、妊娠10ヶ月。
出産予定日まで1週間を切り、赤ちゃんは2800gにまで育った。
重さたったの3kg。
この3kgは私にとってどんな重さなのだろうか。
お腹が大きくなるにつれて、寝付けない日が増えてきた。うつ伏せはもちろんだが、仰向けも苦しい。かと言って、横向きもチョット...なんて日がある。テーブルに突っ伏して迎えた朝がある。
浮腫みすぎてゾウのようになった足は、大好きだった華奢なハイヒールには入らない。
綺麗なネイルだって、クリームパンのような手には必要なくなった。
階段は息を切らしてゆっくり登り、集中しながらゆっくり降る。
転ばないように、一歩ずつ。
午前2時に目が覚める。
ほんの数ヶ月前まで、ただあたたかい気持ちにしてくれていた胎動が、今では痛みを運んでくるようになった。
他にも、妊娠してから変わったこと、不自由になったことは山ほどある。
けれど、私はこの10ヶ月間で「不自由=不幸」ではないということを知った。
妊娠するまでは知らなかった。
愛すべき不自由が存在することを。