雅びなる名の夏草や鄙の道
( みやびなる なのなつくさや ひなのみち ) 
*原句一部修正

ここ数日は、雨が降ったり止んだりの日が続いている。梅雨の真っ最中なのでしょうがないと思うが、それに暑さも加わって蒸し暑く、不快指数も日に日に高まってる。

そんなおりだから、どうしても家に籠りがちになるが、短時間でも外に出てみると、様々な夏草の中に濃い朱色の花を咲かせている草花を時々見かける。



名前は、「姫檜扇水仙(ひめひおうぎずいせん)」というが、「姫」「檜扇」「水仙」が連なる何とも「雅び(みやび)」な名前である。数ある植物の中でも最良の名前の一つであると言って過言ではない。*最悪は「屁糞葛(へくそかずら)。



本日の掲句は、そんな名前が付けられた草花が、非常に鄙(ひな)びた道端に咲いているのを見て詠んだ句である。これは、対義語でもある「雅び」と「鄙び」を取り合わせたもの。それぞれの意味は下記の通り。


 

【雅び(みやび)】
宮廷風で上品なこと。都会風であること。また、そのさま。洗練された風雅。


【鄙び(ひなび)】
田舎風であること。田舎めいて素朴。やぼったい。里び(さとび)ともいう。

尚、今回は「姫檜扇水仙」という名前は使わず、「雅びなる名の夏草」とした。「夏草」はいうまでもなく夏の季語。



因みに、「姫檜扇水仙」に関しては、過去に以下の句を詠んでいる。
*「姫檜扇水仙」は季語になっていないが、②、③では、夏の季語に準じるものとして詠んでいる。

【関連句】
① 夏草に紅一点の姫檜扇水仙
② 川端に巫女舞う如く姫檜扇水仙

*原句を大幅修正
③ 浪漫の夢に憧れモントブレチア

 



①は、緑一色の夏草の中に、「姫檜扇水仙」だけが、鮮やかな紅(朱)色の花を咲かせていることを捉えて詠んだ句である。
②は、「姫檜扇水仙」が巫女(みこ)が舞うように咲いていると詠んだもの。草花の朱色が巫女の袴の色と同じで何とも艶やかである。
③は、洋名の「モントブレチア」の響きに、西欧風のロマンチズム=浪漫(ろうまん)を感じて詠んだ。和名の「姫檜扇水仙」とは違った趣がある。



「姫檜扇水仙」は、アヤメ科モントブレチア属の多年草(球根植物)。原産地は南アフリカ。「檜扇水仙(ひおうぎずいせん)」と「姫唐菖蒲(ひめとうしょうぶ)」の交配種で、明治期に園芸植物として渡来し、その後野生化した。花期は6月~8月。

和名の「姫檜扇水仙」は、交配した「檜扇水仙」=「ワトソニア」よりも小さいという意味で付けられた。但し、これらは別属の草花。



尚、「姫檜扇」あるいは「檜扇」という名の植物も別にあるので、「姫檜扇水仙」という長い名前のどこかを省略して呼ぶ訳にはいかない。*実際のところ、かなり混同して使われているが・・・。



洋名の「モントブレチア」は、この植物を交配した仏人のモントブレットに因む。他に「クロコスミア」 という別名がある。

「姫檜扇水仙(モントブレチア)」は季語になっていないせいか、詠まれた句はほとんどないので、参考句は割愛する。