昼下がり睡魔が襲う合歓の花
( ひるさがり すいまがおそう ねむのはな )


ここ数日は、雨が降ったり止んだりの日が続いた。今日は雨が降らず曇り空のままだったが、気温が30℃を超え終日むしむししていた。こんな日は、外に出ると直ぐに汗ばむし、家に引きこもっていると何となくだるく、断続的に睡魔が襲ってくる。


 

本日のそんな状況を詠んだ句だが、先日に見た「合歓(ねむ)の花」との取り合わせで詠んでみた。尚、「合歓の花」は厳密に言えば「合歓の木の花」となるが、俳句では「合歓の花」あるいは「花合歓」と呼び、夏の季語になっている。



ところで、「合歓の花」といえば必ず思い出す句に、松尾芭蕉の以下の句をがある。

象潟や雨に西施がねぶの花  



これは、芭蕉が奥州(現秋田県)の象潟(きさかた)を訪れた際に詠んだ句。雨に濡れた合歓の花は、まるで傾国の美女と言われた西施(せいし)が憂いに沈んで眠っているようだ、というのが句意。
*西施:中国、春秋時代の越の美女。



「象潟」は、かつて無数の小島が浮かぶ「潟湖」で、松島と並ぶ名勝だったが、1804年の地震により地面が2m以上隆起し、現在は陸となっている。昨年その地を訪れ、展望所からその全容を眺めたが、水田の中に浮かぶ島々が、当時の面影を残していた。



話は戻って、「合歓の花」に関しては、過去に以下の句を詠んでいる。


【関連句】
① くすぐれば夢にほほ笑む合歓の花
② 合歓の花バブルの果ての赤ジュリ扇 

③ 夢うつつ覚めて良かった合歓の花



①は、乳飲み子が、母親に抱かれてぐっすりと眠っている様子をイメージしたもの。「ねむ」という言葉には、親が幼児をあやすような響きがある。
②は、バブル末期にボディコンの女性達が、六本木のディスコ「ジュリアナ東京」の「お立ち台」でジュリアナ扇子(ジュリ扇)を持ち踊る様子を思い出して詠んだ句。
③は、夢の中で誰かに追われて絶体絶命になった時に目が覚めてほっとした時のことを詠んだ句。対句:覚めざるを願う夢みし合歓の花


 

「合歓の木」は、マメ科ネムノキ属の落葉高木で、原産地は日本、南アジア。花期は6~8月。一つの花に見えるものは、小さな花が10~20個集まったもので、薄紅色の糸のような部分は長く伸びた雄蕊である。



「ねむ」の名前は、夜になると葉を閉じて眠ったようになることに由来する。漢字の「合歓」は中国名を当てたものだが、葉がぴったりくっつくことを「男女が共寝して相歓び合う様」として捉え、夫婦円満の象徴として付けられとのこと。

すなわち、「ねむ」という言葉には、親が幼児をあやすような響きがあるが、「合歓」には、大人びた艶っぽい意味が込められている。同じ状況を見て、思うことが微妙に違うところが何とも面白い。

 


「合歓の花」「花合歓」が詠まれた句は非常に多い。本ブログでも、これまで30句ほど紹介したが、今回は記事が長くなったので、新たな参考句の掲載は割愛する。