花石榴魔除けの色に咲きにけり
( はなざくろ まよけのいろに さきにけり )


もう十日も前になるが、近くの大学の裏手に植わっている「石榴(ざくろ)」が、花を咲かせているのではと思い見に行ったところ、樹木ごとばっさりと伐られていた。

大木だが、かなり古びた木だったので止むを得ないのかもしれないが、非常に残念な気がした。ただ、その近くに若い木が数本植わっていて、多くの花を付けていたのが救いだった。



ところで、いつも悩むことだが、「石榴」の花の色を何色というべきか。人により「赤色」といったり、「朱色」といったり、「紅色」といったりと必ずしも定まっていない。



そこで、その違いをネットで調べると、次のような説明があった。

◎「赤」「朱」「紅」は、どれも英語でいう「レッド」系統の色を指すが、三つの言葉は次のように使い分けるのが一般的である。


【赤】最も一般的に使われている赤系統の色を表す言葉
【朱】黄ばんだ赤、オレンジ色に近い赤
【紅】赤い色の鮮やかさを強調するときに使う

それぞれの色見本も示されていたが、正直、説明なしで見せられたら恐らく区別はできないだろう。ただ、自分の感覚からすれば、「石榴」の花の色は「朱色」がもっとも近いような気がする。



この「朱色」という色は、神社の鳥居や神殿によく使われているが、その理由について、「朱色は、生命の躍動を表すとともに、古来より災厄を防ぐ色としても重視されてきた。また、穢れを払う色とも言われている」という説明があった。


*但し、朱色に塗られるのは、平家由来の神社(厳島神社など)や稲荷神社系列の神社などで、平家が権力を持つ以前の神社(出雲神社など)や源氏系の神社(三島神社など)、桓武天皇系でない皇族の神社(伊勢神宮、明治神宮など)は朱色ではない。

 



前書きが、かなり長くなったが、本日の掲句は以上のことを踏まえて詠んだ句である。「石榴の花」「花石榴」は夏の季語。「石榴」「石榴の実」「実石榴」は秋の季語。



因みに、「石榴の花」「花石榴」に関しては、過去に以下の句を詠んでいる。


【関連句】
① 万緑に泳ぐ金魚か花石榴
② 花石榴鳥居の色に似せて咲き
③ 図書館に紅一点の花石榴




①は、「石榴の花」を真っ赤な「金魚」に喩え、緑葉の上を泳ぐように咲いていると詠んだもの。「万緑(ばんりょく)」「金魚」「花石榴」がともに夏の季語なので、季語が三つの季重なりの句になった。
②は、石榴の花の色が、平安神宮の大鳥居の色と同じだと気付いて詠んだ句。本日の掲句の元となった。
③は、図書館の駐輪場に植えてある「石榴」の花を見て詠んだ句。尚、「紅一点」はある漢詩が語源になっているが、その漢詩で詠われた「紅」は「石榴の花」を指すそうだ。



「石榴」は、ザクロ科ザクロ属の落葉小高木。原産地はイラン、トルコなど。5月~6月に鮮紅色(朱色)の花をつける。既述の通り、果実は球状で秋には真っ赤に熟す。

漢名では、かつて「安石榴」と書かれていた。「安石」とはペルシャのことをさし、「榴」は果実が瘤(こぶ)に似ているところから、木に成る瘤という意味。日本に来て、安がなくなり「石榴」という表記になったとのこと。
*「石榴」は「柘榴」とも書く。


*石榴の実 (昨年の9月末に撮影)

 

ところで、「石榴の花」は、鮮やかな朱色(紅色)で近づいて見れば可憐な感じがするが、花が小さくまばらに咲くので、それほど華やかな感じはしない。なのに何故庭木として好まれるかというと、花だけでなく、その果実や黄葉が美しいからだと言われている。

これまで、何度か紹介したことがあるが、それをまとめたのが「石榴の変身物語(2019年改訂)」という記事である。自分としては、まあまあの出来と思っているので、ぜひ以下のリンクにアクセスし、ご笑覧いただきたい。(もう見飽きたという人はパス。)


「石榴の変身物語(2019年改訂)」 ← クリック


*割った石榴の実 (果物店で買ったもの)



「花石榴」「石榴の花」を詠んだ句はままあるが、今回も記事が長くなったので、参考句の掲載は割愛する。