甘き香に仰ぎて見たり泰山木
( あまきかに あおぎてみたり たいさんぼく )


先週の土曜日、例により2週間ぶりに植物園に行ってきた。既に取り上げた「薔薇(ばら)」「「紫陽花(あじさい)」「花菖蒲(はなしょうぶ)」は今も盛んに花を咲かせていた。


 

それ以外では、正門近くに植えてある「泰山木(たいさんぼく)」が大きな白い花を咲かせていた。小花が集まって咲く「紫陽花」とは違い、単独でこの大きさの花は珍しい。近くによると甘い香りが漂ってきた。

本日の掲句は、その時の情景を詠んだもの。中七の「仰(あお)ぎて」の「仰ぐ」には、高い場所を見上げるという意味の他に敬意を示すなどの意味がある。「泰山木」「泰山木の花」は夏の季語。


 

ところで、「泰山木」が「木蓮(もくれん)」の仲間であることはご存じだろうか。これまで、あまり気にしてなかったが、紛れもなくモクレン科モクレン(マグノリア)属の植物である。花は、紫色の花をつける「木蓮(もくれん)」よりも「白木蓮(はくもくれん)」に似ている。

ただ、「白木蓮」の花は、カップのように半開した状態のものがもっとも美しいとされる。尚、「木蓮」「白木蓮」は春の季語である。


*白木蓮の花


 

因みに、「泰山木」に関しては、これまで10句ほど詠んでいるが、比較的気に入っているものを以下に再掲した。

【関連句】
① 泰山木見ゆるは気高き尻ばかり
② タイタンの愛でし花かも泰山木
③ 人は人泰山木は天に咲き



 

①は、大抵の花が裏側しか見れないので、それを「尻」とし、高所に咲くので「気高き」を入れて詠んだ。
②は、ギリシア神話・ローマ神話に登場する巨大な身体を持つ神々「タイタン」と「泰山木」をかけて詠んだ句。語呂合わせを意識。
③は、この木は人に見られることなど全く頓着せず、ただただ天に向かって咲いていると感慨を込めて詠んだ。


 

「泰山木」は、モクレン科モクレン(マグノリア)属の常緑高木。原産地は北米中南部で日本には明治初期に渡来した。日本では公園樹、街路樹として植栽されるが、放置すると樹高20m以上にもなる。


 

花期は5~7月頃で、直径20cmほどの大きい「おわん」形の白い花を咲かす。花弁は6枚、萼片が3枚。花軸上に多数の雌しべがつき、雄しべも多数あり円錐状になる。被子植物では原始的な花の一つ。既述の通り、芳香がある。
*香水の原料や化粧品の香料として「マグノリア」とある場合は「泰山木」のことを指す。

*「泰山木」の花の仕組み


 

名前は、中国の「泰山」とは無関係で、花、葉、樹形などが大きくて泰然としていることから付けられたとのこと。また、花の形を大きな盞(さかづき)に見立てて「大盞木」となり、それが、「泰山木」「大山木」になったともいわれている。

別名に「白蓮木(はくれんぼく)」「玉蘭(ぎょくらん)」がある。


 

「泰山木」については、非常に特徴のある樹木のせいか、詠まれた句が意外と多い。以下には、これまで紹介してきた句の中から特に好むものをいくつか選んで再掲した。

【泰山木の参考句】
昂然と泰山木の花に立つ  /高浜虚子
人一人泰山木の花仰ぐ /高野素十
万緑に泰山木の花二つ /日野草城
泰山木おのが木暮に花咲かす /長倉閑山
泰山木昨日の花に錆にじみ /西村和子