暮らし向き相も変わらず小判草
( くらしむき あいもかわらず こばんそう )


現在、近くの疏水べりは夏草で覆われているが、中でも多く見かけるのが今日取り上げる「小判草(こばんそう)」である。



5月の初め頃から、米俵のような小穂(しょうすい)が茎の上部から垂れ下がり、当初淡緑色だったものが、今まさに黄金色に変わってきている。

その姿が「小判」に似ていることから、その名がついたと言われているが、今年は、それがいつも以上に多い気がする。



本日の掲句は、そんな様子を見ながら、先日聞いた「30年間実質賃金が上がっていない」というニュースを思い出しつつ詠んだ句である。「小判草」は夏の季語。



ところで、改めて30年前のことを振り返ってみると、その頃は、丁度長く続いた好景気がピークに達しバブルがはじけた直後である。

その頃から実質賃金がなかなか上がらない。その反面、税金や社会保険料、公共料金などの負担が徐々に増えてきた。



だから、中七は「悪化の一途(いっと)や」とすべきだが、こう詠むと気分が重くなるので掲句のように変えた。



因みに、「小判草」に関しては、過去には以下の句を詠んでいる。


【関連句】
① 陽を浴びて黄金に染まる小判草
② いつからが老後なのやら小判草
③ 爆上げの株価横目に小判草




①は、当初薄緑色だった小穂(しょうすい)が、強い陽射しを浴びて、黄金(こがね)色に色づいてきている様子を詠んだもの。
②は、草の名にある「小判」から「お金」、「老後」という連想によりできた句。寿命が伸びることは結構なことだが、生きていくためには金がいる。
③は、昨年詠んだ句で、日経平均株価がバブル期の最高値に近づいていることを横目に詠んだ句。(今はその高値をあっさり抜いて4万円前後になっている。)



「小判草」は、イネ科コバンソウ属の一年草。ヨーロッパ原産で、日本には明治時代に渡来。5月~7月に茎の上部に数個の小穂ができ垂れ下がる。既述の通り、当初は淡緑色で成熟すると黄金色に変わる。

別名に「俵麦(たわらむぎ)」があるが、これは膨らんだ小穂の形を俵に見立てたもの。



「小判草」を詠んだ句はままある。以下には、ネットで見つけた句をいくつか掲載した。

【小判草の参考句】
尾を振りて老いたる馬と小判草 /藤田あけ烏
舟を待つ夕日の色に小判草 /浜福恵
さらさらと風に遊べる小判草 /松本記代
小判草百両ほどを刈りにけり /糸井千鶴子
小判草触れて音なき不況の世 /両角直子