廃屋を鎖す十薬の白十字
( はいおくを とざす どくだみの しろじゅうじ )


ツアーから帰り、近辺を散歩すると、やたらと目に付くのが、今日取り上げる「十薬」である。とは言っても、この「十薬」という漢字を何と読むのか。恐らく、俳句をやっている人以外で、読める人は少ないのではないかと思う。



答えは「どくだみ」だが、漢字そのものをどうひっくり返しても読めない。実のところ、これは当て字で、俳句などでは和名に漢名の漢字をそのまま当てることがよくある。



例えば、「さるずべり」には「百日紅」が、「ひまわり」には「向日葵」が当てられている。例を挙げればきりがないが、このことが、俳句に取っ付きにくくしている一つの要因になっているが、慣れてくればそれなりに面白い。



話は戻って、本日の掲句は、ある廃屋(はいおく)の戸口が「十薬」の花に覆われているのを見て詠んだ句である。最近は、そういう家が近辺でも多くなった。



ところで、「どくだみ」という和名の由来は、葉に特有の臭気があるために何かの毒が入っているのでは、ということで「毒溜め(どくだめ)」と呼ばれ、それが転訛したと言われている。


 

しかし、その一方で、漢方薬として様々な効用があり、「毒を矯(た)める・止める」という意味から付けられたという説がある。そして、いくつもの薬効があるので漢字では「十薬」が当てられたと言われている。

それにしても「毒」と言ったり「薬」と言ったり、まことにもって、ややこしい名前である。



因みに、「十薬」に関しては、これまで10数句詠んでいるが、以下には比較的気に入っている句を再掲した。


【関連句】
① 十字路に咲く十薬の白十字
② どくだみや今朝のだみ声治らざる
③ 十薬の毒もて制せこの魔物




①は、「十薬」の「十」に着目して詠んだ句である。「十字路」に「十薬」の「白十字」の花がに群生している様子を詠んだ言葉遊びの句。
②は、「どくだみ」の「だみ」にかけて詠んだ句である。数日前、朝起きたら、声が夏風邪で「だみ声」になっていた。
③は、四年前に詠んだ句で、「十薬」の毒を以ってコロナという魔物を退治して欲しいと祈る気持ちで詠んだ。「以毒制毒」という諺を意識したもの。



「十薬」は、ドクダミ科ドクダミ属の多年草。原産地は東アジア。花期は5~7月頃。花は混じりけのない純白だが、花弁らしきものは蕾を包む苞(ほう)で、中心にある薄緑色の花穂が本当の花にあたる。

「十薬」「どくだみ」を詠んだ句は非常に多い。これまで30句ほど本ブログでも紹介したが、記事が長くなったので、新しい参考句の掲載は割愛する。

 

*珍しい八重咲きの「十薬」