青天の若葉に浮かぶ栃の花
( せいてんの わかばにうかぶ とちのはな )


今日取り上げる「栃の木(とちのき)」の花も、先日訪れた植物園で見たものだが、丁度見ごろを迎えていて、円錐形の花をいくつも咲かせていた。



 

通常の花は白色なのだが、この花木は「紅花(べにばな)栃の木」という種類で、薄紅色の花をつける。それが若葉の上に浮かぶように咲き揃い、青空をバックに映えていた。



 

本日の掲句は、その様子を詠んだものである。尚、「栃の木」の花は俳句では「栃の花」といい夏の季語になっている。「若葉」も夏の季語なので本句は季重なり。

*「栃の実」は秋の季語。


 

因みに、「栃の花」に関しては、過去に以下の句を詠んでいる。


【関連句】
① 巫女鈴の高鳴るごとく栃の花
② 青天にしゃりんしゃりんと栃の花
③ マロニエの見目よき花に見蕩れたり



 

①は、「栃の花」を、巫女が神楽(かぐら)を踊る時に使う鈴=巫女鈴(みこすず)に喩えて詠んだ句。
②は、①の情景をより具体的に詠んだもの。実際に音がした訳ではないが中七に擬音語「しゃりんしゃりん」を用いた。
③は、「西洋栃の木」の別名の「マロニエ」を使って詠んだ句。

*見蕩れる(みとれる):うっとりして見る。われを忘れて見入る。

*巫女鈴(神楽鈴)

 

事のついでにいえば、巫女鈴は神楽鈴ともいわれ、鈴が三段の輪状に付けられており、下から七個、五個、三個になっている。七五三と言えば、「七五三詣」が思い浮かぶが、古来中国では奇数が縁起の良い数字とされ、それに起因すると言われている。

 


「栃の木」は、トチノキ科トチノキ属の落葉高木。街路樹として植えられることもある。葉に特徴があり、各々20cmから30cmの小葉が5枚から7枚向かい合って生え、大型の掌(てのひら)状に広がる。

花期は4月~6月。果実(種子)はトチ餅、トチ団子の材料として使用される。栃木県の県花。


*通常の「栃の木」の花


 

「紅花栃の木」は、ヨーロッパ原産の「西洋栃の木 (せいようとちのき)」と北アメリカ原産の「アメリカ紅花栃の木(あめりかべにばなとちのき)」の交配種。花色は薄紅色(ピンク)。


 

「栃の花」を詠んだ句はままあり、以下にはネットで見つけた句をいくつか参考まで掲載した。(過去に掲載したものを除く。)
*「栃の花」の「栃」は「橡」とも書く。


【栃(橡)の花の参考句】
くらやみの噴火の天に栃の花 /滝春一
密林や少し明らみ橡の花 /渡辺水巴
橡の花きつと最後の夕日さす /飯島晴子
健脚と奥社でわかれ栃の花 /藤原照子
川隔て咲く栃の花人の声 /清水貴久彦


*本記事は日時指定投稿です。現在遠出しており、コメント等への返信は 5月11日以降になります。ご了承ください。