山茱萸の花に冷たき雨雫
( さんしゅゆの はなにつめたき あめしずく )


先週の土曜日に行った植物園では、春を告げるような黄色の花もいくつか咲き始めていた。特に、園内の何か所かに植わっている「山茱萸(さんしゅゆ)」の高木にはかなりの数の花が咲いていた。


 

それを見ながら、今年も一句を詠もうと試みたが、過去に10句以上詠んでいるので、どうしても似たような句しか浮かばない。

こんな時はTPOを変えて詠むようにしているが、今朝たまたま雨が降っていたので、雨の中の「山茱萸」を詠もうと思い、近くの寺に出かけた。

*TPO:Time(時間)、Place(場所)、Occasion(場合)の頭文字をとって作られた和製英語。



本日の掲句は、その時に詠んだ句である。雨は小降りになっていたが、花や枝に付いている雫(しずく)が微かに光っているのが印象的だった。

「山茱萸」「山茱萸の花」は春の季語。「山茱萸の実」は秋の季語。



因みに、「山茱萸」に関しては、過去に以下の句を詠んでいる。


【関連句】
① 山茱萸の黄花浮き立つ空ま青
② 先代が愛でし山茱萸黄を散ず
③ 古家の門の山茱萸花盛る




①は、青い空をバックに「山茱萸」の黄花が霞のように咲いているのを見て詠んだ句。
②は、あるお宅の先代が愛で育てた「山茱萸」が、お亡くなりになった後も満開に咲いている様子を詠んだもの。
③は、その「山茱萸」がある古家の玄関先に植えてあって、門を飾るように花を咲かせているのを見て詠んだ句である。


 

「山茱萸」は、ミズキ科ミズキ属の落葉小高木で、中国と朝鮮半島が原産地。日本には江戸中期に渡来した。花期は3月から5月。若葉に先立って、黄金色の小花の塊を木一面につける。



「さんしゅゆ」は中国名「山茱萸」の音読みで、「茱萸」はグミのこと。10月~12月にグミのような赤い実をつけることから名前がつけられた。但し、「山茱萸」はグミ科のグミ(夏茱萸など)の仲間ではなく、その果実は硬く食用には不適。(薬用には使われることがあるとのこと。) 

*山茱萸の実 (昨年11月に撮影)

 

別名で「春黄金花(はるこがねばな)」ともいうが、花の様子を見ると、この名前の方が似つかわしい感じがする。
*宮崎県の民謡「ひえつき節」の中に出てくる「サンシュ」とは、「山椒は小粒でぴりりと辛い」の「山椒(さんしょう)」のことで、日向地方の方言では、そのように発音するとのこと。「山茱萸」ではない。



「山茱萸」を詠んだ句は非常に多い。本ブログでも、これまで20句以上紹介したことがあるが、以下には、その中から特に好むものをいくつか選び再掲した。

【山茱萸の参考句】
山茱萸の盛りの枝の錯落す /富安風生

*錯落(さくらく):入りまじること
山茱萸が咲きぬ陽気もよくなりぬ /高澤良一
山茱萸の花のこぞりて黄を凝らす /塩川雄三
山茱萸の花やあたりは彩なき木 /宮津昭彦
山茱萸の花の数ほど雫ため /今井つる女